最近、メディアにもマウントサイナイ病院が出てくることもあって現状の厳しさに愕然としています。ただ、その中にあっても患者のために働く岩◎さんを含め医療関係者の方々には感謝の念しかありません。そのような一所懸命働いてくださる方々いる一方で矛盾した動きを見せる一部の政治家、行政の動きには落胆の2文字しかないのが私の感想です。
現在、乳児院の施設長をやっているのですが、東京の乳児院でも新型コロナが発生し、小規模クラスターとなっている現状もあります。そのような中で働くスタッフのことを想像すると日々の仕事とコロナの対応、保護者への対応など凄まじい仕事量となるのは歴然でしょう。
乳児院の仕事の一つに「子どもたちの生命を守る」という当たり前の仕事があります。しかし、これが当たり前なのかというとそうでもなく、私たちスタッフは日々、細い綱の上を歩いている状態なのです。乳児院といっても健常児ばかりでなく医療的ケアに近いような技術が必要な子どもたちもかなり入所してきます。インフルエンザ、ロタ等の感染症が入っただけでも、その対応に神経すり減らす毎日となります。こういった状況が続けば職員は疲弊し摩耗してきます。確かに、専門職としての看護師はこういった対応は乗り越えられるのですが、同様に対応しないといけない保育士や児童指導員など医療を専門としない職員の負担は凄まじいものです。なにせ自分の知識外、技術外のことが目の前で繰り広げられる訳ですから「子どもたちの生命を守る」という一番ベースの問題に不安を持って対応しなければなりません。
乳児院は意外に知られていないことですが、児童相談所で預かっている「一時保護」といわれる児童に関して、2歳以下の児童の場合、乳児院に「委託」という形で入所してきます。現在、コロナ濃厚接触の未感染児童が児童相談所に入所可能となるというニュースがありますが、結局のところ2歳以下の未感染児童は乳児院に入所することとなったのです。濃厚接触者は発症時期が分からないので、もし入所すれば隔離です。しかも発症する可能性があるので対応するスタッフは完全独立体制で別棟の対応をすることとなります。当然、スタッフも感染の可能性があるのですが、本園ではコロナ対応チームを組織するにあたって、自選という形で職員を5人募りました。表現が良くないですが施設長としては戦地に赴く兵隊を招集した感がありました。しかし、スタッフは快く応じてくれました、中には親と相談するという職員もいたのですが、次の日には選抜チームの一員となりました。
「子どもたちの生命を守る」という使命と同時に施設長には「スタッフの命を守る」という使命があります。イタリアでは100人以上のドクターが亡くっています。「子どもたちの生命を守る」ということがどれだけ大変なことか、このコロナ禍の中で改めて考えさせられました。最後にルーテルに懸かる皆さんの健康が守られますように心からお祈りします。
Tide
投稿日 20年05月12日[火] 1:26 PM | カテゴリー: カテゴリ無し,共助社会づくり,大学関連,希望ある明日に向かってメッセージ,社会福祉関連
市川先生、
多くの方からの先生のブログへの投稿を一つひとつ何度も何度も読み返しています。そして、ルーテルの「一人ひとりを大切にする教育」が本当に生きていることに感激しています。卒業生や先生たちがブログ上でお互いに語り合い、励まし合い、学び合うことができるなんて、素晴らしいことですね。こんな素晴らしいコミュニティを作ってくださってありがとうございました。
こちら、NYではピークを過ぎ、少しづつ落ち着いてきました。新規の感染者も入院患者数も減りました。しかし、数字は収まってきていても、コロナとの戦いに終わりはないと思います。NY州内での死者は減りましたがそれでも毎日200人の方が亡くなっています。そして、この毎日200人の死者の数はここ1週間横ばいです。ガンや心疾患、脳血管疾患などで毎年多くの人が亡くなっていますが、もしかしたら、コロナもその中の一つの疾患になるかも知れません。
今、私たち医療従事者が注目しているのは、コロナから回復して退院した方の生活の質の問題です。若くて元気な方は家に帰ることができますが、お年寄りの方は家に帰れるほどの健康状態ではなく、長期療養型の施設に入所しています。今、その数が多くなり、急激に特養老人ホームなどがコロナ病棟を作り始め、病院からの高齢者のコロナ患者さんを受け入れています。そのような病棟で働く私の友人が言うには、コロナから回復した患者さんを受け入れていると言っても、多くの方は終末期のケアの方々だそうです。4月の死亡者の統計に特養の入所者の数はあまり含まれていませんが、特養で働く友人は、半分近くの入所者が急な発熱などでバタバタと倒れて亡くなっていったと、当時のことを話してくれました。
私の働くCOVID ICUでも、何人かの重症患者さんが退院することができました。しかし、退院と言っても人工呼吸器が外れずに気管切開をして、胃ろうを付けて、長期療養型の施設に行く方がほとんどです。このコロナの病理はまだまだ分からないことが沢山あるのですが、多くの方が腎不全や血栓の合併症を発症しています。特に、血栓の問題では重い脳梗塞、または脳出血が起こるケースが多く、最終的には植物状態での長期療養型施設への退院となっています。今まで、誰もこんなに沢山の方が長期療養型施設へ退院するなどと考えていなかったので、長期療養型施設も不足しています。そして、命が助かり、自分で呼吸ができて自宅に帰ることができる患者さんも今、「ICU後遺症」と呼ばれる後遺症に直面しています。 ICUでは、患者さんは重度に沈静化され人工呼吸器につながれ身動きがとれない状態で痛みはないのですが、これが「ICUせん妄」という一時的脳障害を引き起こす可能性があります。 これが後の段階で記憶や思考に影響を及ぼす、と言われています。ICUに長期入院していた患者さんの3分の1の方が退院後、今までしていたと同じ社会生活に戻れないという統計があります。コロナの患者さんの増加が食い止められた今、生き残った患者さんの社会生活をどう支えて行くか、生活の質をどうやって保っていくかが大きな問題となってきました。コミュニティでのサポートが不可欠になってくると思います。
また、一般の方々も長期にわたる自宅待機や仕事に戻れず収入が絶たれる厳しい状況の中で苦しんでいます。ドメスティックバイオレンスやアルコール依存症、薬物依存症のケースも増えています。市民の4分の3の人が、毎日の生活が心配で良く眠れない、半分近くの市民が抑うつ気味だ、と言っています。
前にもお話しましたが、コロナの患者さんの多くの方が低所得地域の方々やマイノリティーの方です。NY市の政策で低所得地域を中心に感染者のテストやサポートを行うことを打ち出しました。しかし、誰が地域でそれを担っていくかが問題です。日本とは違って地域での福祉が弱く、受け皿がありません。そこで、今、教会が地域を支える拠点となり始めています。素晴らしいことですね。今週からいくつかの低所得地域の教会が病院と共同して住民への感染・抗体テストを行うことになりました。今、誰もがNYなどの大都市でのコミュニティの弱さを実感しています。お互いを思いやる小さい規模でのコミュニティがこれからの社会を支えていくことになることでしょう。そうなることを願っています。
患者さんの数が減ったからと言って、このコロナ問題は解決するものではないく、新たな問題が浮かび上がってくるのですね。生活の質や貧困の問題など、これからも戦っていかなくてはいけない事が沢山あります。お互いを思いやって生きていく世の中になりますように。
岩◎恵子
投稿日 7:09 AM | カテゴリー: カテゴリ無し,共助社会づくり,大学関連,希望ある明日に向かってメッセージ,社会福祉関連