2011年12月の投稿

私が、在学生に感謝する理由

私が、在学生に感謝する理由

               ルーテル学院大学

               学長 市川 一宏

 5年目になるでしょうか。私は、1限目を担当する水曜日と金曜日に、授業より20分早く中庭に立ち、「おはよう」と言って学生諸君を迎えることにしています。それは、暑い日も、寒い日も、雨の日も、曇りの日も、晴れの日も、数時間をかけて通ってくる学生への敬意を表したいため。日頃使う「おはよう」「こんにちは」「また明日」という挨拶が行われていたという、ルーテル学院大学の伝統を大切にしたいと思ったからです。しかし、挨拶を続けているうちに、その時が、授業の前に受講生の状況を知る大切な時であること。また自分自身が、「元気ですか」と、逆に励まされていることをわかりました。自分自身のために、立っていたのでした。

 最近もそうです。2011年12月初旬、雨が降っている寒い朝、車椅子の女子学生が授業に向かうために寮から出てきました。そのことを知った通学生が、雨に濡れるのもかまわず、車椅子を押しに来てくれました。彼女の傘は、車椅子の学生が濡れないように差し出されていました。さらに、その二人の姿を見た別の女子学生が駆け寄り、傘を差しだしたのです。

 私は、その自然な思いやりの連鎖が、今、日本社会でもっとも大切なこと、すなわち絆、縁であると思っています。しかも、それぞれが、決して無理をしていない。自然に助け手を差し出す。ルーテル学院大学の日常の生活の中で、思いやりが生まれていました。それは、共に生きる文化です。学生の絆を見ることが私の喜びであり、学生に感謝していることです。

 2011年、生まれもって視覚・聴覚の障害をもつ学生が入学してきました。私たち教職員は、教職員、学生同士のコミュニケーションができるか、不安をもっていました。「障害をもっていることを理由に入学できないのは、障害をもつ本人の問題ではなく、大学自身の問題である」という信念を今まで大切にしてきましたが、不安は少なからずありました。しかし、教員の日々の講義で、また学生同士の日々の生活の中で、それぞれの可能性が花開きました。

 学園祭の手話サークルの企画に、視覚障害の学生が共に参加する。その事実を見て、私は、教育の可能性を示してくれた在学生に心から感謝したいのです。