2013年02月の投稿

天岩戸神社(絶壁にたたずむ秘境)

2013年2月、私は、福知山市民生委員・児童委員基礎研修の講演をお引き受けし、前日、市内のホテルに宿泊しました。自宅から福知山まで5時間以上かかるので、はじめは正直言って、時間的に無理と考えていました。しかし、私の講演をお聞きになった同市民生委員・児童委員会長の2年間にわたるご依頼もあり、福知山城や鬼瓦の生産等で有名な福知山市に行くことを決めました。

開演は午後で、講演時間までどのように過ごすか、朝食をとりながら、思いを巡らしていましたが、ホテルのスタッフの方が渡してくれた『特別編集・福知山』のパンフを見て、どうしても行きたいと思ったのが、福知山北部にある神と鬼のふるさと「大江山」スポットでした。なかでも、「川のせせらぎと、そよぐ木々静寂さの中で神聖な雰囲気を醸し出す」と書かれていた天岩戸神社は、駅から歩いて20分と書かれていました。調べますと、福知山駅から大江山口内宮駅までの所用時間は約30分なので、十分余裕をもって福知山駅まで帰ってくる予定で、電車に乗りました。

 

 

 

 

 

 

 

9時7分福知山駅発39分着の北近畿タンゴ鉄道の一両編成の列車に乗り、車中で念のために帰りの電車を探しました。福知山駅への時間を11時に設定しても、また12時に設定しても、大江山口内宮駅の出発時間は9時43分。再度調べて見ると、その後の電車は11時38分発で、福知山駅に12時7分着でした。私の講演開始は1時25分なので、十分余裕はありましたが、主催者から言われた昼食の時間には間に合わないことに気がつきました。単線なので、駅ですれ違う43分までの5分間、最後まですぐに引き返すか迷いましったが、バスかタクシーで戻ることも可能だろうという甘い期待をもち、また私以外にも下りられ方が一人おられたことにも勇気づけられ、天岩戸神社に向かうことにしました。

しかし、途中、誰一人出会うことはありませんでした。早朝積もった雪が木々から落ちてくる道を、歩き続けました。雪が突然強くなり、行くか戻るか迷いながら、でも歩き続けました。途中に自然遊歩道という看板があり、小道は見えたのでしたが、今の天候ではとても危険な道です。こんな厳しい自然になるなんて、クリスチャンが神社に行こうとしているので、「バチ」があたったのかと思いながら、徐々に不安が広がっていきました。着ていたコートは濡れ、手は寒さにかじかんできました。後で聞いたことですが、この時期に天岩戸神社に来る人は非常にまれとのこと。

最後に雪が積もった階段があり、手すりにつかまりながらたどり着いた神社は雨戸が締められ、私以外、誰一人いませんでした。自然の中に一人取り残された自分がいました。

しかし、神社の軒先は、雪や雪解けの水を避けるのには好都合。幸い風は強くなく、体温を奪われることは少なかった。そして周りの自然は、雪が降り、味わいのある風景。川の流れの音は、心に溶け混む。神社の展望台から見る川の水は澄みとおり、寒さは気持ちを引き締める。この厳しい自然の中で、私は、バンフの「川のせせらぎと、そよぐ木々静寂さの中で神聖な雰囲気を醸し出す」という説明を実感しました。自分の心が、不安に押しつぶされることなく、また自然を受けとめるだけ素直であったから、自然の美しさを受けとめたと思います。

 

帰りは、元伊勢内宮皇大神社まで道を登り、そこから階段を下りてきましたが、コケに覆われ、雪を受けとめている木々に、美しさを感じました。正月には、たくさんの人がお参りに来られるとのこと。このような文化、宗教は、地域づくりになくてはならないものと私は考えています。地域への愛着と、互いの交流を生み出すのです。地域住民の共通な心の柱となってきた歴史があると思います。

出発時間の約50分近く前に、当初の予定のコースを歩き終え、駅近くの観光センターに着きました。そこには、一人の職員の方がおられ、お願いしてストーブにあたり、コートやズボン、靴を乾かすことができました。タクシーのことをお聞きすると、1台あるとのこと。またバスは電車と連動しており、途中駅までしか行かないことを知りました。私の期待は、身勝手な期待であったのです。

職員の方は、センターのコンピュータで、午前から行われていた研修会場の電話番号を調べて下さり、電話をかけて市の関係者と連絡がとれ、事情をお伝えすることができました。そして、ご厚意で福知山駅まで迎えに来て下さることになりました。

私が歩いた福知山市大江地区は、西から来る寒気が大江山にあたり、そのため雪が多いとのこと。11時台の大江山口内宮駅に電車を待っておられた高齢の方は、10時台の電車がなくなり、病院の診療に行くことが難しくなったと言われていました。年をとると、自然はとても厳しいと言われた言葉を忘れられません。

他方、観光センターの方の親切さが、とても温かかった。さらに講演には、大江地区の20人近くの民生委員・児童委員の方が来ておられました。私が歩き始めた所には、何軒もの家がありましたが、たぶん、高齢化が進んでいるのではないでしょうか。土曜日の10時頃で、子どもは学校や幼稚園に行っているのかもしれませんが、子どもの声は聞こえませんでした。研修に参加なさっている民生委員・児童委員の方々が、一人暮らしの高齢者の方々等の生活を見守り、支えて下さっていると実感しました

今回の講演のテーマは、「つなぐ心 地域の絆づくり〜期待される民生委員・児童委員とは〜」です。地域の民生委員・児童委員の働きに心から感謝したい。

しかし、今の日本の政治は、大都市の経済論理を日本中に適用しようとしていないでしょうか。高齢化によって弱くなっていく地域を、軽視していないでしょうか。グランドデザインを示さず、また地域の力を支援し、強化し、再生するチャンスを示せないならば、政治の無策と言われても反論はできない。今、政治のリーダーシップが強く求められていると思います。と同時に、地域が再生のための実践を通して、地域の可能性を示していくことが必要だと考えております。今回お会いした福知山市の民生委員・児童委員の方々の福祉のまちづくりの取り組みから、学ぶことは多いと感じています。

新幹線の車内では、もうすぐ品川駅に着くとアナウンスがありました。福知山から京都までの特急では、講演の疲れで、私はいつものように眠っていました。また京都から新幹線に乗って品川まで、ほとんどコンピュータにむかって、天岩戸神宮の思い出を書いていましたので、あっという間に4時間近くが過ぎたことになります。それだけ、大江地区には魅力があったし、私は生きていく力を与えられた。だから、その経験を文章にどうしても残しておきたかったのです。

福知山市の明日に期待しています。