2020年04月の投稿

徐々に生まれつつある地域での活動

コロナウイルスの感染が広がる中で、孤立、貧困、虐待等の問題が深刻化しています。しかし、今まで支援を担ってきた人たちも、今はなかなか動けない。しかし、困難の中にあって、何とか継続している活動があるとともに、少しづつ、地域活動も生まれています。ご紹介します。

1.東京ボランティア・市民活動センターは、3月31日から4月3日、都内区市町村ボランティア・市民活動センター向けに「新型コロナウイルス対応に関する緊急アンケート調査」を行い、添付の調査結果を公表しました。( https://www.tvac.or.jp/news/50470 )

2.東京ボランティア・市民活動センターが都内の居場所が受けている新型コロナウィルス感染症の影響の調査結果です。    HTTPS://WWW.TVAC.OR.JP/DOWNLOAD/0149F0DBD0.PDF

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6.須坂市社会福祉協議会 感染拡大の不安 電話の相談窓口    新型コロナウイルスの感染が広がる中、須坂市社会福祉協議会は、不安を感じている市民のために電話の相談窓口を設置しました。
須坂市社会福祉協議会が設置したのは「こころちゃんおしゃべり電話」という電話の相談窓口です。
新型コロナウイルスの感染が広がる中、人との交流をする機会が減り不安を感じている人の相談を受け付けようと、今月16日に設置しました。
窓口は平日の午前中、職員合わせて9人が相談に応じるということです。
須坂市社会福祉協議会では、平成5年から1人暮らしの高齢者を対象に相談員が週に1回電話をかける「安心コール」という相談サービスを行っていて、新型コロナウイルスの影響で好きなカラオケに行けなくてストレスがたまる、施設に入っている妻に会えず寂しいなどという相談が寄せられているということです。
新たに設けた窓口では、こうした1人暮らしの高齢者からの相談をはじめ、市民からの相談も受け付けることにしています。
須坂市社会福祉協議会の須山範一係長は「新型コロナウイルスの影響で人と直接話す機会が減ってしまったと思います。誰でも気軽に電話をしてほしいです」と話していました。
「こころちゃんおしゃべり電話」の電話番号は026−248−5606で、受付時間は平日の午前9時から正午までです。『信州NEWS WEB』4月23日

7.最近の活動> 第1に、現在のような緊急時にできることとして、①自宅でできる活動として、マスクをつくり、医療従事者、子どたちや高齢者、障がい者、施設関係者など配布する活動、②今までしていた訪問を電話による安否確認や電話相談に代える、③子ども食堂を休止したボランティアが配食を行う、④学習支援をオンラインに切り代える、⑤サロンの代替活動としての電話連絡、⑥おもちゃや図書の貸し出しのみ実施、⑦散歩を兼ねて手紙や機関紙を届けるポスティング活動、が行われていました。今は直接手を繋ぐことはできなくても、一緒に問題を解決する手段を見つけること、そして今まで築いた絆を寸断することなく、堅持し強めていくために、ICT技術を活用してメッセージを発信するなどのコミュニケーションを考え、実践することに取り組んでみる時だと思います。

8.「TOCOS トコス」 新型コロナに対する緊急対策として、都内に住む外国人の不安や困りごとに対応するための相談センターを開設しました。「TOCOS トコス」という名前です。開設以来電話が鳴りやまない状況が続いています。HTTPS://WWW.METRO.TOKYO.LG.JP/TOSEI/HODOHAPPYO/PRESS/2020/04/16/11.HTMLHTTPS://WWW.SEIKATUBUNKA.METRO.TOKYO.LG.JP/CHIIKI_TABUNKA/TABUNKA/TABUNKASUISHIN/FILES/0000000919/200416_CHIRASHI.PDF

9.子ども食堂への支援

ニューヨークで働く卒業生からのメッセージ⑷

<市川>4/24 「岩◎さん、どうしていますか?東京は、爆発的感染の一歩手前のようだ。院内感染も増えてきました。市川」

<岩◎>日本のニュースは少しづつ届いています。特に医療の現場では、マスクなどの不足、医療体制が整っていないことなどもBBCニュースで見ました。アビガンと言う薬が効くと、楽観視している人が多いようですが、コロナはそんなに簡単な病気ではないと思っています。今、効果的に防ぐには自宅待機しかないのが現状だと思います。みんなが心を一つにしなければ乗り越えらないでしょう。

こんな中ですが、ロック歌手のボンジョビが私の働く病院のために歌を歌ってくれました。


<市川>4/25「岩◎さん、ラインをありがとう。とても厳しい病院の環境の中で、患者を救おうと働かれているあなたの姿は、厳しい現実に直面し、さらに深刻な事態に直面するかもしれない私たちに、勇気を与えてくれます。

今、私たちは、医療崩壊の危機だけでなく、生活崩壊の危機に直面しています。
病院において、さまざまな方法で、患者とその家族に関わり、生活相談に応じている医療ソーシャルワーカー。
ホームで生活している高齢の方々、障がいを持つ方々、子どもたち等々の生活を支えるたくさんの卒業生は、岩◎さんと同じように、福祉を崩壊させないために、自分がウイルスをうつすのではないか、ウイルスにうつるのではないか、ウイルスがホームに入ってきたら住んでいる人たちの生活と命はどうなるのか、不安を抱え、日々のケアで疲労し、ギリギリのところで、踏ん張ってくれています。

在宅の場合も同様です。地域で生活している方々が直面している孤独、貧困、虐待、フレイル、介護、経済・心身機能の低下・失業・介護負担等の問題を抱えています。だからこそ、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、地域福祉コーディネーター、ホームヘルパー等は、訪問する等をして、困難に直面する人々津一緒にこれからを考え、少しでも問題を解決しようとしています。

私は、福祉関係者の働きに心より感謝し、その中にいる卒業生たちを誇りに思っています。そして応援していきたいと思っています。

岩◎さんからのメッセージは、家庭を守っている卒業生を含め、たくさんの卒業生に勇気を与えています。だから、健康に留意して、何としても生き抜いてほしい。

「明けない夜はない」という事実を実現した時に、また会いましょう。

その時を心から待っています。
市川一宏」

<岩◎さん>4/26「今のNYは市民の自宅待機徹底の協力で少しづつ状態は改善の兆候が出てきています。しかし、医療の現場ではまだまだ厳しい状態が続いています。考えさせられる事が多い毎日です。

 私は博士論文でドイツの哲学者、ハイデガーの理論に基づく解釈的現象学での研究をしました。今、またハイデガーの「存在と時間」を読み返しています。ハイデガーが死に関しても、また、人間の経験からくる人生に対しての見解もその場に置かれた状況によって変わってくる、と言っています。まさにそれを私も今、経験しています。幸せの意味も人生に対しての有り難さの個人的な定義もこのパンデミックの中では変わってきています。

 今まで私が普通だと思いましたいた事が今では普通でなくなり、幸せと思っていた事が幸せではなくなし、反対にこんな些細なことでも人間は幸せを見出し、人生の意味をも感じます。そうやって昔から哲学者は人間の生きる意味を考えてきたのでしょうね。今、それがとてもわかります。コロナは無差別に人間を襲います。若い人にもです。私はアメリカで言うHealth Care Proxyと言う、自分の健康や医療に関しての決定権を決る代理人を夫にして、DNR/DNI (心肺蘇生しない、気管挿管しない)と胃瘻はしないに、サインをしました。

 これからは神様から頂いら命をどうやって活かすかも考えて行くべきです。そして、最後は神様が決めてくださるので、私は最前を尽くして神様に後はお任せしようと思います。悲しいかな、これが最前線で働く医療従事者の人生科も知れませんね。そして、毎日、朝が訪れることにも感謝をしつつ、毎日が始まる事にも有り難さが一杯です。先生も、どうぞお身体を大切になさってお過ごし下さい。

 最後に、これからは地域/コミュニティが最大の焦点になってくると思います。弱者を擁護するソーシャルワーカーの働きが不可欠な社会のなります。私もルーテルファミリーの一員として、今後の社会を担うルーテルの卒業生を応援しています! みんなで心を一つにして頑張りましょう! 」

<市川:卒業生へ>同期を介して私に岩◎さんのラインが届き、始まった彼女への応援メッセージでしたが、今は、私が励まされています。さまざまな困難が予想される今、覚悟をもって、大切な人、大切なことを守っていく覚悟を強めることができました。岩◎さんが言うように、「みんなで心を一つにして頑張りましょう! 」

ニューヨークの病院で働く卒業生からのメッセージ⑶

<市川>16日の朝、岩◎さんからメールが来ました。3つのメールです。日本は12時間早いですので、看護師の仕事から帰り、私たちにメールを書いてくれています。感謝を持って、掲載します。岩◎さん、ありがとう。そして、くれぐれも健康に留意して下さい。

<岩◎>①「市川先生、改めて、沢山の仲間からの応援メッセージをありがとうございました。応援してくれる仲間がいると思うと心強いです。

こんな生活にも少しずつ適応してきて、客観的に色々なことを考えることができるようになりました。私の働く心臓外科ICUがコロナの患者さんの激増と共にあっという間にCOVID ICUになってしまいましたが、その時に、病棟内の患者さんを見て、ほとんどの患者さんがマイノリティー(ヒスパニック系とアフリカンアメリカン系)だと言うことに気が付きました。60%以上がヒスパニック系、35%以上がアフリカンアメリカン、5%以下が白人でした。病院がハーレムに近い場所にあることも関係しているのかな、と思ったのですが、どんなに患者さんが入れ替わってもこの比率は同じでした。

先週、NY市長とNY州知事の会見で、コロナの患者さんはマイノリティーが人口の比率に比べて圧倒的に多いとのこと。私が考えていたのと同じで、NY州とNY市内のどちらも、ヒスパニック系がだんとつに多く、それに続いてアフリカンアメリカン系が多い、との統計が出されました。それは、低所得地域で生活する貧困からくる、教育が十分でない、また、貧困で健康を守れない人たちや、自宅での仕事ができるホワイトカラーの白人とは反対にブルーカラーで仕事に行かなくてはいけない低所得者層が関係しているのです。ブルーカラー労働者としては、デリバリーの人、タクシー運転手などなど様々ですが、貧困が関係しているとのことでした。他の州でも同じく、シカゴでは圧倒的にアフリカンアメリカンのコロナの患者さんが多いので、同じことが他の大都市でも言えると思います。

NY市長はこれから、低所得地域を中心にコロナのテストを行うとともに、保健師やソーシャルワーカーが地域で活動してコロナの増加を防ぐような対策を始めるようです。アメリカは日本よりはコミュニティの中でお互いを助ける、と言う概念がとても薄いです。反対に、ドイツでは地域の医師が自宅を訪ねて市民の状況を把握し、教育をしながら状況が悪くなったら病院との連携をすることも行っていると聞きました。これからは、お互いが地域で助け合うことが、このコロナに関しても大切になってくるようです。先生のおっしゃっている地域でのネットワーク作りがもしかしたらこれからは日本でコロナを防ぐ大切な役割になってくると確信しています。

また、今後、日本のでのコロナ対策として、看護師の確保、マンパワーの不足、医療の体制が大きな焦点になってくることも考えられます。アメリカでは医療崩壊が起こっていますが、なんとか持ちこたえているのが、医師と看護師の連携・チームワークのバランスが取れているからです。

私がアメリカで看護師をして一番日本と違うなと思ったことは、看護師の自律性です。アメリカの看護師は看護師としての独自の意思決定があり、それを医師が尊重してチームとしてのバランスが取れています。例えば、今の状況で言うと、患者さんの部屋はネガティブ・プレッシャー(陰圧)の個室の隔離室になっていて、多くの人がコロナに感染しないように、限られた人だけが部屋に入ることにしています。その限られた人とは、看護師やポータブルのレントゲンを撮るレントゲン技師、人工呼吸器を扱う呼吸器専門のセラピストです。患者さんの部屋のドアがガラス張りになっていて、部屋の中が見えるので、医師が部屋に入ることなくガラス越しに患者さんを見て、看護師からの細かい情報や看護師の判断を仰ぎ、看護師と医師が対等に話し合い、患者さんの治療方針を決めます。

看護師も看護師としてのできる範囲が広く、動脈血ガスを採取してそれを病棟内にある機械に自分でかけて、その結果を見て、看護師が自ら人工呼吸器のセッティングを変えたり、または、変えることを医師と相談します。状況によっては看護師が自分で判断し、処置をして、それから医師にそれを報告し、医師に後から指示書を書いてもらうこともあります。

技術的なことは、中心静脈カテーテルと言う大きな静脈に入るカテーテルやスワンガンツカテーテルと言われる心臓の中に入って心臓の状態を見るカテーテルの抜去、または気管挿管の人工呼吸器の管の抜去も看護師が行います。そのため、医師がわざわざベッドサイドまで行ってやらなくても良いことが多く、少ない数の医師だけでも沢山の患者さんの治療方針の決定や指示書を出すことなど、医師としての業務に専念できます。そのような絶妙なチームワークが今の医療の現場を保っています。

情報を集めて、根拠に基づき自分の意見をはっきり言うことを私も学びましたが、日本に帰ったら空気が読めなくなって、やっていくのが難しくなってしまうかも知れません(笑)

今後、これからの医療の在り方や地域包括支援の部分でも多くなり、変化が起こってくることが予想されます。私たちはコロナで大打撃を受けていますが、NYの知事が「ニューヨーカーは強く、賢く!」と言っているように、これがもしかしたら、みんなが心を一つにして、良い未来へのドアを開けてくれることになるかも知れません。

私たちの未来のためにもお祈りください。

岩◎」

16日日本時間で11時頃 

<岩◎>②「ソーシャルワーカーが今、本当に地の塩、世の光となる時代になっています。とても大切な役割を持っていますし、これからの日本を左右するとも思えます。これ、現場からの声です!

取り急ぎ。 岩◎」

<岩◎>③16日第3信 「市川先生、明日の勤務に備えて、就寝の時間になりましたが、少し、お伝えしたいことがあります。

今、自宅待機が続き、子供も大人も家にいて、そのために仕事がなく、収入が途絶えて苦悩しているNY市民、特に低所得者が沢山います。悲しいことに、そのために、今、ドメスティックバイオレンスが増加しています。信じられないかも知れませんが、NYの貧困層の子供は学校給食に頼って栄養のバランスがかろうじて取れている状況です。NY市長が最後までパブリックスクールを閉鎖しなかったのは、児童の生活と栄養の不足と危険が懸念されたからです。

今、NY市内では、公的サービスの必要さがとても見直され、不可欠となっています。

コミュニティの包括サービスがどれほど大切かを身をもって実感しています。

岩◎」

ニューヨークの病院で働く卒業生からのメッセージ⑵

卒業生の皆さんへ
 皆さん、お元気ですか。コロナの猛威は凄まじい。どうぞ、くれぐれも健康に留意してください。

<市川>さて、遅れて届いた卒業生からの応援メッセージを再度岩◎さんに送りましたら、以下のメールが届きました。私がメッセージを送って、少し時間が経ったので岩◎さんが体調を崩したのではないかと心配していましたが、無事がわかってほっとしました。

<岩◎>4日「応援メッセージをありがとうございます。懐かしい名前があり、嬉しく読ませていただきました。3日間連続の12時間勤務が終わり、ほっとしていますが、身体にはかなりこたえます(笑) 今の状態は悪化していませんが、良くもなっていないので、このままこの状態が続きそうです。私もこの新しい環境に少しづつアジャストしてきていて、仕事と休養のバランスなども取れてきています。同僚が体調不良やコロナの症状で次々に仕事に来れない中、私の健康は守られていますので、ご安心ください。」

<市川:卒業生へ>岩◎さんの踏ん張りに感動するとともに、彼女の生き方に励まされます。同様に、卒業生の多くは、直接相談やケアを行い、まさにギリギリのところで踏ん張ってくれています。高齢者や障がいをもつ方が生活しているホームで働いている卒業生、医療現場で患者の相談に応じ、治療後の患者の復帰を支援している卒業生、地域で生活する高齢者や障がいをもつ方を支援する卒業生、子育て支援を行っている卒業生、生活困窮者を支援している卒業生など、その働き場は多様です。彼らは、仕事の中で、自分がコロナウイルスに感染するのではないか、また利用者にコロナウイルスをうつすのではないか、家族や友人への感染の危険性はないかと心配し、不安と緊張の日々が続いています。でも、彼らの働きがなければ、その方々の生活が成り立ちません。

 今は、社会福祉を支える卒業生たちの繋がりが大切だと思います。そして、その輪が、保健医療福祉の様々な分野で働く方々に広がり、互いに辛い思いや苦労を理解し合いながら、支え合って、明日への希望を生み出したいと思っています。

 落ち着いたら、また皆と会いたいね。

<追加>岩◎さんからの当日のメッセージです。 「マスクなどももちろん足りないのですが、病院で使うN95と言うコロナのウイルスを通さない特別なマスクがFront lineでは必要なので、どうぞ、心配して物資のサポートはされなくても大丈夫です。今は足りないなりに、使い回しなどでやりくりしています。色々なお気遣いをありがとうございます。今は祈りがどれほどパワフルかと言うことを実感していますので、どうぞ私たちことを心に留めていてください。ありがとうございます。
こちらの状態などがわかる記事とニュースで報道された動画を添付いたしました。これはNY市内のクイーンズの病院のことですが、どこも同じ状態です。参考までに。https://www.bbc.com/news/world-us-canada-52137160 https://www.cnn.com/2020/03/31/us/coronavirus-medical-shortages-us/index.html

ニューヨークの病院で働く卒業生から学ぶ⑴

<市川>4月2日午前8時、同期を介して、ニューヨークにいる卒業生の岩◎さんよりラインが届きました。私の卒業式のメッセージや卒業生への呼び掛け文を読んで、涙したこと、心が癒やされたこと、そしてニューヨークにおける医療現場の厳しさが書かれていました。

私は、早速、今でも繋がっている卒業生に対して、以下のメール・ラインを送りました。 

<市川><岩◎さんへの応援メッセージの依頼>

「こんにちは。

さて、1992年度岩◎さんから、ラインが届きました。励ましのメッセージを送ろうと思います。

「私は今、マンハッタンのMount Sinai Hospital と言う大きなhealthcare system の中の一つのHospital のCOVID ICUで働いています。3日前ですでにMountSinai System の全部の病院での死者が187人に上り、今日の時点では死者の数がもっと増えていると思います。霊安室も一杯でご遺体を置く場所もありません。ICUベッドもICUナースも足りないし、人工呼吸器も足りません。私の働くICUでは<省略>まさに、戦場下です。数週間前までは普通に生活をしていたのに、人間の生活ってこんなにまで急に変わってしまうのですね。自分の身を守るためのマスクやガウン、フェイスシールドなども不足して、自分の身も守れません。こんなに時ですが、いつも私が神様に願っていたこと「神様のために私を用いて下さい」と言うことが、もしかしたらこれなのかも知れません。・・・・・。」

励ましの気持ちを伝えたい卒業生は、私個人に100字以内のメッセージを送って下さい。今週末には、まとめて送りたいと思います。」

 そのメール・ラインを受けて、私にたくさんの励ましのメール・ラインが届きました。4日の午後、それをまとめて岩◎さんに送りました。私たちの思いを込めて。

 今日5日に、早速、岩◎さんからメールが届きました。

<岩◎>「市川先生、

ルーテルの皆さんからのメッセージを一つひとつ大切に読ませて頂きました。涙が止まりません。皆さん、本当にありがとうございました。

そして、多くの方の祈りに支えられて私の毎日があるのだと思いました。皆さんの祈りを大切にこれからも頑張っていきます。どうぞ、これからも私たちのために祈ってください。

今の時点で、NY市内でのコロナ患者さんの死者が2600人以上にのぼりました。まだまだ、上昇のスピードが衰えておらず、今後2週間後あたりにピークが来ると言われています。

統計からみると、病院にコロナで入院した3分の2の患者さんは後遺症があるにしても自宅や施設に退院しています。その反面、3分の1の患者さんは重篤な状況になり、ICUで治療されているか、または亡くなっています。重篤患者さんの増加に伴い、私の病院ではICU病棟が70床以上にまで増やされました。<省略>お年寄りの患者さんの数も多いのですが、若くて既往歴の全くない健康な30歳代、40歳代の重篤なコロナの患者さんも増えており、自分は若いから大丈夫だということはコロナに関しては通用しない恐ろしさがあります。

<省略>

ご存じのように病院のベッドが足りず、コンベンションセンターや海軍の船が病院としてコロナでない患者さんを収容していますが、今、一番深刻なのは看護師、医師不足です。特にICUの看護師が不足して、私たちICUナースは通常の2倍の量の患者さんを受け持っており、同僚たちもオーバーワークで次々に体調を崩していっているので、これからは体力勝負となってきました。

看護師、医師不足を解決するために各州で、免許を持っていて今は臨床で働いていない看護師や医師のリクルートも始まり、定年退職した看護師や医師にも現場に戻ってきてもらるようにしています。最悪の場合、看護学生や医学生の導入もバックアッププランとして考えられています。

医療従事者の不足もちろんのことながら、人工呼吸器やその他の医療器具の不足も深刻な中で、この状態が続けば患者さんのトリアージをして、助けられる命を選択して治療を行っていかなくてはいけないことになるかも知れません。それだけは避けたいと願っています。

患者さんの看護を通して見えない敵、コロナの怖さを見せつけられていますが、問題なのは効果的な治療がないことで、今は、防ぐことだけが多くの人の命を救うことにつながっています。日本でも、医療関係者が日本でも数週間後にアメリカのような状況になってしまうこともあるかも知れない、と言っておられますが、確かにその危険はあるかも知れません。ですから、今、一人ひとりができること、他人事とは思わずに外出自粛、自宅待機などを守っていくことで、アメリカのような状況は防げると思っています。

皆で心を一つにして生きていく時になりました。

私も皆さんの祈りに支えられて頑張っていきます。

また、近況をお知らせします。

本当にありがとうございました。

岩◎」

<市川:卒業生へ>今回の呼びかけを通して、私が感じたことは、以下の通りです。

1.私がメール・ラインを送った卒業生の多くは、相談やケアを行い、まさにギリギリのところで踏ん張ってくれていること。例えば、生活しているホームで働いていたり、医療現場で一般の患者の相談に応じ、また治療後の患者の復帰を支援している卒業生、訪問をして、高齢の方や障害をもつ方を支援する卒業生、子育てに関わる支援を行っている卒業生、生活困窮者を支援している卒業生がいます。彼らは、仕事の中で、自分がコロナウイルスに感染するのではないか、また利用者にコロナウイルスをうつすのではないかと、不安と緊張のただ中に置かれていること。でも、彼らの働きがなければ、利用者の生活が成り立たないことも事実であり、緊張の日々が続いていること。

2.それゆえに、自分のことで精一杯なことは、十分理解できること。

3.このように献身的に働いている専門職に対する社会の配慮、応援、理解が乏しい言動や動きが散見されること。

4.卒業生には家族がおり、小さい子どもを含めて、養育していかなければならないこと。また、親の介護の責任がある卒業生もいること。家族にウイルスをうつさないか、心配は尽きない。

5.ウイルスの感染によって大きな影響を受ける子どもを必死で守っている何人もの卒業生がいること。

私は、それぞれの卒業生の働きに心から感謝し、それぞれの生き方に敬意を表します。

確かに、コロナウイルスの広がりは、今までの関係を打ち砕き、不安、恐怖、不信、怒りを生み出し、負の連鎖が広がってきています。

だからこそ、私は、大切なもの、大切なことを守る決意が必要だと思います。私は、その中に「人への思いやり」を加えたい。そして、今回の卒業生との絆を、これからも大切にしていきたい。絆を寸断されるのではなく、より強めたいと思っています。そのためにも、皆には、何としても罹患せず、生き抜いてほしい。

非力な私ですから、それぞれの悩みや痛みを聞く役割しか担えません。しかし、卒業生とこれからも歩んでいく可能性を模索し続けていきたいと思っています。一緒に明日を切り開いていきましょう。

ルーテル社会福祉協会

2019年8月21日、ルーテル学院大学において、ルーテル社会福祉教会の総会が行われ、「キリスト教社会福祉教育の挑戦〜ルーテル学院大学における36年を通して」というテーマの講演をお引き受けした。本資料は、その内容である。

同協会に属する社会福祉法人<東京都>東京老人ホーム(高齢者)・ベタニアホーム(母子ホーム、保育園)、<千葉県>千葉ベタニアホーム(母子ホーム、保育園)、<静岡県>デンマーク牧場福祉会(高齢者、児童養護、精神診療所)、<大阪府>るうてるホーム(高齢者)、<北九州市>光の子会(児童養護ほか)、<大分県>別府平和園(児童養護)、<熊本県>慈愛園(乳児、児童養護、高齢者、障害児・者、保育園) 、キリスト教児童福祉会(児童養護ほか)、NPO法人 

 私は、ルーテル社会福祉協会を構成する社会福祉法人、NPO法人すべてを訪問することができました。各法人の歩みと現在の事業・活動内容は、るうてる法人会連合編『未来を愛する希望を生きる』(人間と歴史社)にまとめられています。

 また、私は40数年間、いくつもの計画策定に関わらせて頂きました。そしてこの20年ほど、孤立、虐待、貧困などのたくさんの問題が顕在化してきていると思っています。ものすごく社会がゆがんでいると考えています。そして、他人事ではありません。自分自身も、今後、孤立の問題と直面するかもしれない。その現実に、キリスト教主義の施設やキリスト教社会福祉がどのように関わっていくかが問われているのです。その挑戦は、各法人の創設時と共通していると思います。すなわち、福祉制度がない時代に、また福祉利用者に対する偏見が色濃くあった時代に、先人の方々が支援を立ち上げた苦労を、私たちは共有することができると考えています。

1.今の地域社会を考える

2025年には団塊の世代の方々が後期高齢者になられます。しかも、家族の扶助機能の脆弱化に伴い、高齢者世帯の7割を一人暮らしまたは高齢者世帯が占めるようになり、介護を要する人に介護する家族はいないという現実が広がると予想されます。

 しかし、2025年問題は、実はすでに大都市で起こっています。高度経済成長が始まった1960年代に都市に就職してこられた若者が、工業団地等の集合住宅に住み、そして今、多くの入居者が高齢者となっています。団地自体が急激に高齢化し、孤立の問題に直面しているのです。

2009年の『閉じこもり予防・支援マニュアル (改訂版)』(厚生労働省)によると、「閉じこもり」をもたらす要因は、「身体的要因」(身体的老化など)、「心理的要因」(不安)、「社会環境的要因」(物理的バリア、定年などによる社会的役割の喪失)があり、相互に関連して、多くの高齢者を孤立状態に追いやっていくとされています。

 また、今日増加している虐待も、「保護者側のリスク要因」(医療につながっていない精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存、そして被虐待経験)、「子ども側のリスク要因」(子育て負担のある乳児)、そして「養育環境リスク要因」(親族や地域社会から孤立した家庭、経済不安、貧困など)が相互に関係して生み出されています。そもそも子どもは、虐待を受けるために生まれてきたのではない。神様から祝福されて生まれてきた。だから、皆、「おめでとう」と言われて祝福される存在である。この原点を見失ってはいけません。

 さらに、生活困窮者を取り巻く問題としては、8050問題があります。長く引きこもりを続けてきた50歳代の子どもが80歳代の親と生活している。子どもには収入がなく、したがって年金などの社会保障を受ける権利もなく、両親が亡くなると経済的問題に直面します。また、今日、生活困窮者になりやすい不安定就労の方々、家にひきこもる方々が増加しています。孤立、虐待、そして貧困が大きな社会問題となっていることを認識する必要があります。

2.社会福祉制度の動向

 まず、介護保険制度についてお話をします。たとえば、孤立すると高齢者の心身の機能は低下し、要介護状態になっていく。さらに認知症が進むと徘徊や見当識障害が深刻化し、介護する家族が疲れ切ってしまうというような悪循環が起こってくる。これに対応するためにも、それぞれの地域の実情に合った医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」が提案されています。特に、生活支援は、介護予防と結びついて、高齢者自身の社会参加を促すとともに、地域サロン・見守り・外出など支援という住民などがボランティアとして行っていた活動を介護保険制度に組み込むものです。すなわち、「地域福祉の制度化」が進められています。さらに、同システムは、自立支援、重度化防止に重点に置いています。それは、単に医療保健システムを強化するだけでなく、「地域共生社会」を目指した取り組みであり、孤立した高齢者、介護家族が住民として地域でできるだけ自立して生きていくことができる地域社会を作る実践が高齢者福祉施策において重要とされています。

また、児童福祉分野では、2011年の『社会的養護の課題と将来像児童養護施設等の社会的養護の課題に関する検討委員会・社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会とりまとめ』において、社会的養護の基本的方向として、①家庭的養護の推進、②専門的ケアの充実、③自立支援の充実とともに、④家族支援・地域支援の充実があげられ、「施設は、虐待の発生予防、早期発見から、施設や里親などによる保護、養育、回復、家庭復帰や社会的自立という一連のプロセスを、地域の中で継続的に支援していく視点を持ち、関係行政機関、教育機関、施設、里親、子育て支援組織、市民団体などと連携しながら、地域の社会的養護の拠点としての役割を担っていく必要がある。」としています。すなわち、地域における協働が提案されています。この基本的考え方は、2017年に厚生労働省雇用均など・児童家庭局家庭福祉課より出された『社会的養護の推進に向けて』に継承されていると思います。

さらに近年、社会福祉法が改正され、社会福祉法人に、法律上、地域における公益的事業を行うことが義務づけられています。公益的事業とは、地域における居場所(サロン)、活動場所の提供などを通じた地域課題の把握や地域づくりに関する取り組み、住民ボランティアの育成などであり、すでに皆さんがなさっておられると思います。

 最後になりますが、生活困窮者自立支援制度を説明します。2013年、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある人を支援するため」、生活困窮者自立支援法が成立しました。同法は、2015年度から、各地方自治体に自立相談支援事業(就労その他の自立に関する相談支援、事業利用のためのプラン作成など)の実施、住居確保給付金の支給を行わなければならないとしました。また、課題となっていた生活保護受給者の自立支援やひきこもる人々の社会復帰、また貧困によって教育の機会を奪われ、貧困の悪循環から脱することができなくなる危険性のある若者への就労、学習支援などの幅広い取り組みを市町村、社協に求めています。同制度の考え方は、生活困窮者支援を通じた地域づくりであり、「生活困窮者の早期把握や見守りのための地域ネットワークを構築し、包括的な支援策を用意するとともに、働く場や参加する場を広げていくこと(既存の社会資源を活用し、不足すれば開発・創造していく)、さらに<支える、支えられる>という一方的な関係ではなく、<相互に支え合う>地域を構築する」ことを目指しています。

これらの施策に共通していることは、協働による共生の地域づくりです。

なお、近年、福祉関係者は「我が事丸ごと」という言葉を良く聞くと思います。「共生の地域づくり」を「我が事」とするなら、「丸ごと」は、児童・障害・高齢福祉等の分野で分断することなく、合わせて議論しましょうということです。生活困窮は広く住民を対象とします。また高齢者や就職氷河期で不安定な就労しかつけなかった人の中にも、生活困窮者の予備軍となっている方がおられる。

 介護保険では、対象を障害児者と高齢者にした共生型サービス事業を創設しました。私は2年前、代表的な共生型施設である富山の「この指とまれ」を訪問しました。そこを保育で利用していた小学生5年生の文を読みました。その児童は、乳児の時に病弱で「この指とまれ」しか受け入れてもらえなかったそうです。そこで世話をしてくれた人は、重度の認知症だったけれど、いつもニコニコして抱いてくれた。その方は働きに来ていると思っておられたそうです。その体験を通して、「障害を持っている人も高齢者も、障害を持っていながらも元気で生き抜いている人たち」なんだと書いています。そこに、共生の意味があると思います。一緒に歩み、出会いながら、それぞれの痛みと可能性がわかようになるのです。

3.キリスト教・教会とキリスト教社会福祉との関わり

(1)基本的考え方

私は、教会から発せられる言葉である隣人愛の実践が、キリスト教社会福祉の実践であり、教会の地域への玄関が、幼稚園・保育園を含む社会福祉施設、地域活動であるとも考えています。ですので、以下に述べるキリスト教と社会福祉実践を結び合わせる5つのCの座標軸が大切だと考えています。

①共感(Compassion)

悲しみや痛みを感じ、喜びや感動する心を抱き、自分らしく生きたいと葛藤し、人間としての誇りを生きる糧とし、安心する心の拠り所を求めさまよう、そうした人生を一歩一歩積み重ねて生き抜いてきた利用者の「生きる」姿に共感すること。これは、同じように生きてきた自分自身を理解することから始まります。

②連帯(Collaboration)

「隣人」とは、生きる意味を共に考えてくれる同伴者です。すなわち、叫びをあげている人々から求められることにひたすら応え続け、同伴者として歩むこと。それは、利用者の存在を支える働きであり、互いが生きる意味を教えあい、共に考える空間であり、意味のある人生を互いに築いていく過程ではないでしょうか。例えば、地域ケア会議等の連携の中で、各キリスト教社会福祉を実践する団体はどのような役割を果たすのか、地域社会における使命は何か、明確にしていく必要があります。

③当事者の様々な能力の向上(Capacity building)

「孤児の父」と言われた石井十次は、明治後期に密室主義(個人的な話し合いによる教育)、旅行主義(見聞を広めるように努力すること)、米洗主義(米をとぐようにそれぞれの特質を現させる)等の岡山孤児院12則を明らかにしました。また知的障害児の父と言われた糸賀一雄氏は、昭和20年代から療育を通して、発達保障というミッションを掲げました。先人の精神を継承するならば、当事者の生きようとする力、他者を理解しようとする力、潜在的な自立能力を一緒に発見し、維持し、強化していくために、日々切磋琢磨し挑戦をしていくことが求められています。

④運営方針の明確化と組織強化(Check and evaluation)

社会福祉法人改革の現状分析は首肯できませんが、組織の透明性等の強化、公益事業の義務化に関しては、一つの機会ととらえています。

組織内だけでしか通用しない常識は、それを非常識と言います。そして、キリスト教社会福祉を実践する団体が、社会から求められている存在であるのかと確認し続けて頂きたい。

上記の4つの『C』を横軸に、キリストの教え『Christ』を縦軸にする座標軸。すなわちキリストが私たちのために十字架につけられ、自らの命を捧げて下さったこと、そして復活なさり神の元におられるという信仰を縦軸にする十字の座標軸がキリスト教社会福祉の実践だと考えています。 

(2)特に意識して頂きたいこと

①自立の概念の変化

そもそも自立とは、個々の能力に応じたものであり、その人が有する障害に対しては支援を、その人がもつ能力は活用という基本的視点が大切です。また、自立の目標は就労による経済的自立なのでしょうか。地域生活における自立、社会関係的・人間関係的自立、文化的自立、身体的・健康問題と自立等、多様な自立を支えるという視点が求められています。

②当事者主体

身体障害をもつ方、知的障害をもつ方の社会参加は課題がありつつも、一定の実績はありますが、近年は特に、精神障害をもつ方の社会参加、自己実現を目指す活動が注目されています。浦河べてるの向谷地氏は、当事者研究を示し、当事者自身の取り組みを前面に掲げています。初期の認知症を持っている方々が当事者として社会参加していく可能性を模索する実践もそうです。このような実践が、全国に広がっています。

③継続的支援の強調

継続的な支援を考えていかないと、多くの当事者は孤立するのではないでしょうか。例えば、一定の年齢になり、児童養護施設を卒園した青年が、突然社会での自立を求められることには無理があります。人生のそれぞれの歩みの過程で、一緒に歩む人、活動、組織の支援があることが不可欠です。限定されていたサービス、制度を結び合わせるシステムを創り出していくことが求められています。 (以上、「キリスト教社会福祉実践の原点を考える」(発題要旨)『キリスト教社会福祉学研究』52号、日本キリスト教社会福祉学会)

 ルーテルの教会によって建てられた施設や学校が、地域における生活問題にどのように立ち向かうのか。また、本来は、教会が中心になって、問題へ取り組んでいくことが望ましいのですが、事実、多くの教会は、今までの役割を担うことができなくなっていると思います。ならば、私たちが、教会のミッションを掲げ、一緒に歩み、教会の宣教力を強めるような挑戦はできないでしょうか。支えられてきた教会にどのような恩返しができるでしょうか。

4.ルーテル学院の挑戦

①社会から求められる大学を目指した改革

 ルーテル学院は、ルーテル教会の青少年教育の一環として、1909年に創設された路帖神学校に始まり、本年(2019年)、創立110周年を迎えました。同時に、本年は三鷹キャンパスへの移転50周年という記念の年でもあります。

大学としての歩みをお話します。1964年にルーテル神学大学という名称で設置認可が下り、大学は、1976年に神学科にキリスト教社会福祉コースを設けました。私は、1983年にルーテル神学大学の専任講師になりましたが、当時の学生数は、1学年で20名前後であったと思います。しかし、確実に社会福祉の専門職の必要性が高まっており、本学は1987年にコースが独立して社会福祉学科となり従来の神学科と合わせて文学部2学科体制になりました。また、1992年には、社会福祉学科の定員は60名になり、神学科にキリスト教カウンセリングコースを設置しました。1993年にはブラウンホールを竣工し、学ぶ環境を強化するとともに、1996年にルーテル学院大学と名称を変更し、2000年には社会福祉学科は80名に定員増をしました。当時は、社会福祉分野への働きに対して社会の関心が高く、数の上で、社会が求める人材の養成ができていたと思います。

②高度の専門教育によるソーシャルワーカーの能力向上

ルーテル学院大学は、2001年に大学院 人間福祉学研究科 社会福祉学専攻(修士課程)を、2004年に博士課程を開設しました。これは、深刻な生活問題を解決するためには、高度な専門知識と専門技術をもつ人材が求められるという、現場、教育、研究の要望に応えるものでした。しかも、開講時間を、木曜日・金曜日の6限、7限という夜間と、土曜日の1限から5限とし、福祉現場等で働いている専門職も受講できる仕組みを考えました。そのため、優秀な教員を配置しましたが、大学院があるということは、大学自体の教育力、研究力を高めると実感しています。

③人間理解と隣人愛を支援の根底に置いた改革

2005年には、臨床心理学科を設置し、1学部3学科体制になりました。同時に神学科を「キリスト教学科に改組して、文学部を総合人間学部に名称変更しました。また同年、大学院に臨床心理学専攻を設置し、1研究科2専攻体制になり、人間福祉学研究科を総合人間学研究科に名称変更しました。2006年にはトリニティホールが竣工となりました。この改革の目的は、教育の目的と一致します。すなわち、ルーテル学院は心と福祉と魂の高度な専門家を養成するという教育の目的を掲げています。すなわち、キリスト教学科は、キリスト教に基づき人間の存在、神から与えられた命の尊さを学び、イエスキリストの愛を伝える人材を生み出す学科です。社会福祉学科は人間の生活を支える仕組みを作り、援助をしていくソーシャルワーカーを養成する学科です。臨床心理学科は、人間の心に寄り添い、援助する心理の専門職の養成を目的としています。これらの3つが合わさって「心」と「福祉」と「魂」の高度な専門家を養成する大学になりました。

④学び方改革

 2014年、ルーテル学院大学は人間福祉心理学科に子ども支援コース、社会福祉援助コース、臨床心理コース、地域福祉開発コース、キリスト教人間学コースという5つのコースを設け、1学科5コース制になりました。具体的には、学生はキリスト教学、いのち学、福祉学、心理学等から学び、人間を理解し、心を学び、福祉の実践を身につけて卒業していく機会が提供されます。卒業生の多くが、人を支援する現場で働いていますが、支援の相手は、学問領域で分けられるものではありません。「靴に足を合わせるのではなく、足に靴を合わせる」、すなわち支援の相手に相応しい支援

 本大学の取り組みから、お伝えしたいことは、以下のことです。

①たえずチャレンジ:本大学が、小規模大学です。しかし、教育への情熱とネットワークはマンモス大学にひけをとらないのはもちろん、柔軟で迅速な対応ができるという強みがあり、存在感を示してきたと思っています。それは、本大学が置かれている状況を絶えず検証し、「したいこと」「できること」そして「求められること」を皆で考えてきた結果だと思います。そして卒業生が教育の成果を表してくれていると思います。

②たえずミッションに立ち返ること:本大学は、「自分のためでなく、隣人のために生きて、仕える生に神の祝福があるように(ルター)」というミッションを堅持しようとしてきました。ミッションは建前ではなく、日々の業務に活かされるものです。そして、たえず立ち返り、検証していかなければなりません。

③今の社会は、混乱のただ中にあります。たくさんの方が排除され、また解決困難な問題に直面しています。その方々に、希望の光を届ける使命を実践していくことが、私たちに求められていると思います。今後も一緒に挑戦していきませんか。

感謝

 2018年度より2年間の学長の仕事を終えることができました。一時期、体調を崩しましたが、教職員、学生、卒業生、後援会推進委員、教会、教育、福祉等の関係者、行政、社協等、たくさんの方々がご支援下さり、ルーテル学院創設110年の実績を社会にお示しすることができました。本当に実り豊かな日々でした。

 これからは、学生の教育、研究の体系化、私のライフワークである「困難に直面する方々を支援し、希望の光を届ける人材を育て、支援する仕事」を進めてまいります。ご指導頂けますよう、お願いいたします。