2013年度卒業式(3月7日)

礼拝堂の入口礼拝堂の入り口

礼拝堂の正面

礼拝堂の正面1礼拝堂の正面2

 

 

 

 

 

 

2013年度卒業式  3月7日

花は咲いています

本年の2月1日、宮城県石巻市で開かれた地域福祉フォーラムの基調講演とシンポジウムの司会のご依頼を受けました。テーマは、「震災からの地域の再生コミュニティのあり方を考える」でした。まもなく、東日本大震災から3年目を迎えようとする今、被災地の復興と地域の再生をめぐる本格的な議論が始まっています。

私は、講演の内容を固めるに際して、本当に悩みました。なぜなら、何度も石巻市を訪問し、被害の大きさを知っていたからです。また復興が遅れている現実を見ていたからです。大切な家族や友人、家や財産、思い出の品を、津波で根こそぎ失った方がたくさんおられるからです。ですから、私がどのような励ましの言葉を言っても無意味ではないか。いや、返って失礼ではないかと思い、悩み続けました。

ルーテル教会救援「るうてるとなりびと」が活動していた地域に大川小学校がありました。そこには、何10人もの子どもたちが通っていました。しかし、2011年3月11日、海から来た津波と、川を上って来て、橋にからまった木などの障害物が堰となり、ぶつかって戻ってきた津波に襲われ、たくさんの子どもたちと教師が亡くなりました。2年後の2012年2月に行きました時には、川をせき止め、まだ見つからない子どもを探していました。その夏には、もう使われていない小学校の正面にある記念碑に、いっぱいのひまわりが飾られていました。その意味を、『ひまわりのおか』(文:ひまわりをうえた八人のお母さんと葉方丹 絵:松成真理子、岩崎書店)という本で知りました。その詩の一節を紹介します。

「ひとつぶの小さな種が、 千つぶもの種になりました。

そのひとつぶひとつぶが、 ひとりひとりの子どもたちの、思い出のように思えました。また 夏が来たら 会おうね。ずっとずっと いっしょだよ。」

悲しみは、消えません。これからもその事実は変わらない。しかし、ひまわりの花言葉は、「あなたを思い続けます」です。大切なあなたを思い続けていく。思い出を心に留め、生きていこうとする人たちがおられることを私は忘れることができません。

現地は、これからもたくさんの課題に取り組まなければなりません。震災で家を失い、避難所で生活をし、仮設住宅に移り、そこも離れて復興住宅でこれからの生活を築こうとする人々がおられる。しかし、そのような状況にあっても、明日を切り開こうとする、たくさんの希望の花が咲いてきています。厳しい時に、困難な場所で咲く花だからこそ、多くの人の心に励ましを与え、明日への希望を生み出すと思っています。

全国で歌われている復興支援ソングをご存知でしょう。「花は咲くプロジェクト」として、歌われている歌があります。その歌の一節を紹介します。

夜空の 向こうの 朝の気配に

わたしは なつかしい あの日々を 思い出す

傷ついて 傷つけて 報われず 泣いたりして

今はただ 愛おしい あの人を 思い出す

誰かの想いが見える 誰かと結ばれてる

誰かの未来が見える 悲しみの向こう側に

花は 花は 花は咲く いつか生まれる君に

花は 花は 花は咲く いつか恋する君のために

聖句に戻ります。(マタイ6:27)

「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾っていなかった。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたにはなおさらのことではないか」と書かれています。

ソロモンは、古代イスラエルの第3代の王で40年近く王として君臨し、イスラエルの最盛期を築いた人です。そのような強力な権力をもった人でも「野の花」にはかなわないと書かれている。

また、聖書に書かれている「野の花」は何か。『新聖書植物図鑑』(廣部千恵子著、教文館)によると、一般的には、アネモネであるとされています。アネモネは、春一番に咲く花であり、花は朝開き、夕方近くになると閉じてしまう。6枚の花びらがあり、花の直系は4〜8㎝で、花びらの基は黒っぽく、周りは白い花です。その花自体、薬になり、たくさんの効用があるようです。でも、この花は、イスラエルの春一番に咲く、普通の花です。

イエスは、この「野の花」を含め7つの譬えを語られ、「思いわずらうな」といことを私たちに伝えて続けておられます。(ウイリアム・バークレー著、松村あき子訳『マタイ福音書上』ヨルダン社、1968.p.277)なぜ、思い悩むのかと。神がこれほどまでに愛されているのに、何を戸惑っているのかと。

  確かに、大学には、たくさんの花が咲いていました。昨年、私は、療養中の大切な卒業生に、大学に咲く花の写真を、毎日送り続けました。東門のそばに咲く卒業生から送られた「カンヒザクラ」、「シャガ」、紫色のちいさなすずのような花は「ムスカリ」、前田ゲートのところに咲く「スズランスイセン」、嵐のようにさきほこる「ユキヤナギ」、「昼顔」「ヒペリカムヒドコート」、「バラ」「紫陽花」「ツツジ」「ダッチアイリス」、「釣り鐘スイセン」、「シラン」等々。私は、花の名前を知りませんので、神学校の新校長になられる石居先生にお聞きし、名前がわかりました。

 大学の敷地のいたる所に咲くそれぞれの花には個性があり、美しかった。しかし、わたし自身が、咲いているたくさんの花に気がつかなかった。その美しさに気がつかないで、日々を過ごしていた。治療に専念している彼女をどうしても励ましたくて、彼女が過ごした大学に咲く花を写真に撮って送ろうとした時に、こんなにたくさんの花が咲いていることに気がついたのでした。

  本当に大切なものは。私たちをいつもそばで見守ってくれた花ではないでしょうか。私たちには、気がついていないが、私たちの周りには、たくさんのいやりがある。悲しいことは、辛いことは心の中に残る。そして、怒りは、心を揺らします。しかし、大切なことは、また希望の光は、特別なものではない。普段何気なく歩いているその道に花が咲いていおり、その花に見守られ、私たちの今がある。

 本当に大切なものは、私たちをいつもそばで見守っていてくれた花。私たちの思いを支え続けてくれた花。今日は、君たちをここまで支えてくださった花に、お礼を言おう。私も、今まで私を支え、今日の卒業式に参列している一輪の大切な花にお礼を言いたい。

今日、卒業する学生諸君に申し上げたい。あなたたちは、私たち教職員にたくさんの思い出をくれました。一生懸命授業を聞き、予習と復習を欠かさず、ノートにまとめていた学生。自分を追い求め、心が揺れていた学生。一人ひとりとの出会いが、私にとって、思い出です。共に学んだ者として、苦しみのただ中にある人に、希望と愛の花を届けてほしい。

  私も、学長という立場から、実践、教育、研究のフィールドに重点を移します。毎日のように人身事故が起こる日本社会は本当におかしい。いても立ってもいられない。社会で、君たちと出会うこともあるだろう。自分が目指す明日を大切に、希望を心に灯し、困難にある人々にルーテルの花を届けてほしい。そして、届ける花がなくなった時には、大学での生活を思い出してほしい。大学には、いつも、たくさんの花が咲いています。

 卒業、おめでとう。これからもよろしく。

大学に咲いていた花

中庭の桜中庭のシムラメン 中庭の小さな花

 

 

 

 

 

 

前田ゲート