長野市福祉推進委員研修会

 日本海を通る台風の影響で、東京は夜から非常に強い風と雨が自宅の窓を打ちつけた。ここ10年、東京で、自然のこれほどの驚異を思い知らされたことがあっただろうか。私は、ほとんど寝むれなかった。私が眠れないのだから、相当の荒れ方である。しかし、長野までの道のりは、私に適度な眠りと休息の時間を与えてくれた。そして、会場の700名を超える参加者の熱意にふれ、私の早朝の疲れは、充実感へと変わった。長野は、私にお励ましを与えてくれるところである。

長野市は、市町村が合併して大きくなり、今や人口30万人を超える中核都市である。市の面積は広く、地域の特性が多様であるところに特徴がある。現在26地区に地区社協が設置され、その約90%に1,500人近くの福祉推進員が配置されている。小地域の活動が盛んな地区社協が多く、相談・見守りなどの活動、情報伝達活動、ボランティアの仲間づくり活動、配食サービス等を行う。

講演は、「住民参加による小地域活動」。各地の事例を紹介しながら、各地域にあった小地域活動に取り組みことの大切さをお伝えした。その後は、福祉推進員研修会活動事例報告が行われた。

事例報告のねらい

地域にはこんな課題があり、こんな取り組みが行われている。でも、それは個人の気づきやちょっとしたきっかけから始めたことだ。福祉推進員も何をしたらいいかわからないと悩んでいないで、気づいたことで、自分でできそうなことからはじめてみようと思ってもらうように具体的な事例を報告する。

その事例がどんな意味を持つのか、個人から始まる地域活動、個人の思いついた活動から始まる地域活動がたくさんあることに気づいてもらうために、事例をつなぐためのコーディネーターをおく。

●活動事例報告コーディネーターは  香山篤美さん
夢空間松代のまちと心を育てる会事務局長
長野市ボランティアセンター運営委員

● 活動事例報告者

*障害者の自立と地域で暮らすことについて考えてもらう
「自分たちのことを知ってもらうために<地域にとけこみ隊>を企画した」 中條幸恵さん
中條さんは、重度の障害者で身障住宅にひとり暮らしをしている人です。仲間と地域の人に自分たちのことを知ってもらおうと、子どもたち向けにビデオ上映会を開き、交流活動を進め、障害者が地域で暮らすことを追い求めている。現在、長野市地域福祉計画策定市民作業部会で活躍中
*外国籍の人も地域で暮らしていることに気づいてもらう
「外国籍の人のお産に立ち会ったことから始まった地域助け合い」 青木とし江さん
解散した婦人会の会員をベースにかぜっこの会で活躍中。たまたま新聞の記事で目にした、同じ地区に住む外国籍の女性のお産の手助けに協力したのがきっかけで、長野を離れた女性親子と今でも文通が続いている。現在、児童センターなどで絵本の読み聞かせやおやつ作りなどの活動に取り組んでいる。
*子どもたちにも地域福祉活動はできる、活動を受け入れる側の姿勢も考えてもらう
「地域の子どもと施設がドッキングしてピカピカ雪かき隊が生まれたやすらぎの園」 中島謙二さん
地域のボランティアや子どもたち(篠ノ井東小学校)を積極的に受け入れているやすらぎの園に、ちびっ子雪かき隊が誕生した。生徒会長に立候補するときの公約にこの奉仕活動を掲げて当選したという。ホームページにも掲載したり子供向けの受け入れを企画するなど受け入れ側の施設の対応が大切という。
■いずれの事例も、組織的に動き始めたものではなく、気づき活動していくうちに組織化されたり広がりがもてるようになってきたものだ。

●コメンテーターは 市川一宏さん ルーテル学院大学学長
感想:中條は、自宅で両親と暮らしていたが、外の出て多くの人と出会いたい、生活を楽しみたいという当たり前の気持ちを抱いて、市内にある身障住宅でひとり暮らしを始めた。地域にとけ込みたいということで、「地域にとけ込み隊」を組織した。きっかけは、団地の当番からはずれていたことに気がついたこと。子育て中の母親を対象に団地の集会室で映画会を行う、またサマーチャレンジボランティアを通して中高生との関わりが増えた。心の垣根(意識)は出会いによって変わる。出会いは、違いを認め合いながら、理解しあう機会である。青少年自身も、出会いによって、生きていくことを学び、成長していく。それを地域も担うのであって、人と人とをつなぐ役割を社協は果たしていた。

青木さんは、若い子育て世帯が多い地区で、「地域の子どもは地域で育てよう」という意図を持って、風っ子の会を立ち上げた。短期の仕事のために、はじめて長野市の移ってきた夫婦。出産間近の中国出身の日本語を十分話せない妻と山形出身の夫。お産の不安と孤独感が夫婦を襲う。その危機を、大変さを理解した人々がいて、言葉のハンディを表情やアクションで補い、夫婦のお産後に寄りそった。私は、大変さを共感する感性と、見過ごせない思いやり、そして気負わない普段着の活動に感動を覚えた。

中島さんは、やすらぎの園(特別養護老人ホーム)の施設長。閉じこもりがちな子どもが、サマーチャレンジのボランティアを通して徐々に育っていく姿を見つめ続ける。地域との交流を大切にする。施設は、地域福祉を進める主体であり、住民は、施設を育てる主体である。私がよく使う言葉が、「老いをともに生きる」。その意味は、高齢者から学びながら生きることであり、また自分自身も、一歩一歩、老いの山に向かって登っていくことを言う。今、「ありがとう」という感動する気持ちを子どもの心にともそうとする中島さんや職員がここにおられる。ホームページも若者の視点を入れており、なかなかのもの。

このような活動の広がりは、どのように生まれるのだろうか。私はこう思う。

  1. 広がりは、気づきを大切にすることによって生まれる
  2. 広がりは、はじめの一歩を踏み出すことによって進む
  3. 広がりは、出会いを大切にし、違いを理解することによって強められる
  4. 広がりは、普段着の働きによって継続する
  5. 広がりは、各地区にある思い、つながり、仲間づくりを掘り起こし、活かすことによって大きく伸びる。
  6. 広がりは、良いことを良いことと認め、誇りを持って発信し続け、出会いを繰り返していくことによって、新たな段階に達する< li>広がりは、感動の心を互いに大切にしあうことによって、勇気を生み出す