杏林大学病院のACP講演会に参加して

2024年11月13日の17:30〜18:30に、杏林大学大学院講堂において、講師角田ますみ准教授(保健学部)の講演をお聞きしました。

角田先生は、ACP事例という以前に、救急や集中治療領域にある患者や医療者がどのような状況におかれているのかをわかってもらうために以下の事例を紹介されました。

1.介護施設入所中の80代女性

本人は以前「延命治療は嫌だねえ」と言っていたようだがそれ以上踏み込んだ話をしてこなかった。今回、急性肺炎で急性呼吸不全となり施設より救急搬送。人工呼吸器によって回復可能性もあるが可逆性は不確実。しかし呼吸状態が悪いので数十分以内に挿管するか決定しなければならないが、本人は意識がなく家族とも連絡がとれない。

2.交通事故にあった50代男性

特に持病もなく健康だったが、外出中に交通事故にあい、心肺停止。挿管等救命処置をしなければ助からないが外傷がひどく回復の見込みはかなり低い。とりあえず家族は救命を希望し処置が行われたが、その後意識の回復はなく、また治療による二次合併症で明らかに苦痛が強い状態。

しかし家族は万が一について話したことがなかったのでどうしていいかわからない。

3・肺炎と菌血症で入院中の70代女性

循環器系疾患で長らく治療していた患者で、すでに多臓器不全とDIC(播種性血管内凝固症候群)を起こしており、人工呼吸器と透析も行っているが、治療しても血圧の維持が困難な状況。担当医は、回復はほぼ不可能、万が一のときの心肺蘇生も本人にとって負担ばかりで無益と考え、家族に説明するも、家族は以前救命処置で本人が助かった経験から心肺蘇生を含めた救命を懇願している。

4・COPDの急性増悪で救急搬送された70代男性

COPDの急性増悪で入院を繰り返していたが、禁煙できず生活習慣を変えられなかったエピソードあり、本人も「十分生きたから治療なんかで長らえたくない」と言っていた今回はかなり重症で著しいCO2ナルコーシスと意識障害があり、救命するなら人工呼吸器管理が必要な状態だが、過去のカルテには「延命治療はしないでほしい」「植物人間になりたくない」という発言が記載されている。

実母が挿管されて意識が戻らず亡くなった経験から上記の発言があったようだが、その時とは状況が異なり、また現時点での本人の意思は確認できないため、どこまで治療することが本人の意思にそうのか、本人にとっての最善が何かわからない状況。

「現場で患者と接する医療者にACPや意思決定の問題を担わせる形になってしまっているのも事実なのです。」と角田先生は言われました。

そもそも、もっとも自分の命について主張すべき、もしくは主張したいと思っているかもしれないにも関わらず、様々な理由で沈黙している人は患者本人です。その当事者になる可能性がある私たちにとっても、病院内で医療従事者等が葛藤している現状を理解し、自分自身がどのように人生を決定するか、発言できる時にあらかじめ考え、話し合い、何らかの形で残しておく必要があると、私は考えています。添付の練馬区の計画では、いたるところで、ACPの文言が書かれています。今回の講演をお聞きして、その概念を自分なりに整理するとともに、練馬区の実践からも学んでいきたいと思っています。 

https://www.dropbox.com/scl/fi/88eecwflnkaaoy312z9ol/.pdf?rlkey=tz9zbeuwdmfyu2u1fhnf2yvp5&dl=0

では、以降、角田先生より学んだACPの基本的考え方をお伝えします。

1.ACPの定義:厚労省「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」、日本版ACPの定義(2022)必要に応じて信頼関係を築いた医療・ケア従事者等の支援を受けながら、本人が現在の健康状態や今後の生き方、さらには将来受けたい医療やケアなど、将来への心づもりについて考え、家族や身近な人たちと話し合うこと」、角田先生「将来の変化に備え、本人が、自分の価値観や希望について考え、繰り返し関係者と話し合い、共有するプロセス」

2.ACPの位置付け

3.

病院長の近藤晴彦先生は、「人間のみが、自身のこれから先のこと、人生の最後のことを、あらかじめ考えることができます。つまり、自分らしく生きることを選択できるわけです。医療者は、正しい情報を伝えたうえでその人の考え方を知り、それに呼応して納得できる医療が提供できるのだと思っています」と言われています。角田先生のレジメの後半には、医師、看護師等の医療従事者の立場から、どのようにACPに取り組む必要があるかという提案がなされていました。

また、12月に開催されました調布市高齢者福祉推進協議会でも、地域包括支援センターの職員から、『もしものための話し合いーもしバナゲーム』を使った人生会議の持ち方について報告がなされました。

さらに、12月6日に開催されたん日生財団の高齢社会ワークショップでは、浜松医科大学臨床看護学講座教授の鈴木みずえ氏より、「DXを用いた高齢者を支える家族関係重視型ACPプログラム開発」という実践的課題研究の報告がありました。

 私は、住民を中心に杏林大学病院と地域医療、地域福祉関係機関、団体が協働してACPの取り組みを進めていく時期が到来していると考えています。