民生委員・児童委員の選任要件に関する検討についての意見

 「令和5年の地方からの提案等に対する対応方針(令和5年12月22日閣議決定)」(地方分権提案)において、「民生委員児童委員の選任要件(民生委員法6条1項及び 児童福祉法16条)の緩和については当該市区町村に居住しない者を民生委員児童委員として選任する上で参考となる地域の実情等を調査した上で、地方公共団体、関係団体等の意見も踏まえて検討し、令和6年度中に結論を得る」ことを目的に、厚生労働省に民生委員・児童委員の選任要件に関する検討会が設置され、2回の会議が行われました。第1回は、論点を整理し、第2回は各団体より提案が出され、今後のとりまとめが行われる予定になっています。

 ただ、民生委員児童委員の居住要件緩和等については、いずれの団体も民生委員児童委員制度の堅持、強化を目指しており、その提案には首肯できる点も多くみられるものの、賛成と反対の意見がはっきり分かれました。そこで、ある都道府県民生委員児童委員の団体の役員の方から、私に意見を聞いてみたらとの推薦を受けたそうで、東京新聞の記者の方より問い合わせがありました。以下は、その質問に対する私の回答です。

質問⑴今回、検討委で議論している居住要件の緩和について、どのようにお考えになりますか?

①改選前の時期にあって、担い手不足を解消する一つの有力な方法であることは了解できます。

②居住要件を変更しようとする提案の根拠も基本的にはわかります。確かに、地域の住民関係は希薄化しており、地域が激変しているのも事実です。ただ変更を提案している地域福祉モデルは、現実に民生委員児童委員の方々が取り組んでいる伝統的な地域福祉モデルとは、異なっていると思います。あらゆる方法が可能であるということではないと思いますので、どのような地域ケアを目指すのか、議論が大切に思います。

③他方、居住地要件の緩和に対して、民生委員児童委員活動の根幹を揺るがすものであるとの反対も、十分理解しますし、説得力があると思います。今まで民生委員児童委員の確保のために取り組んできたこと、その課題、それを解決する方法を提示している報告も多数見られ、今後の議論の展開に寄与すると思います。

④また、私が研修や委員会等で関わらせて頂いた県民児協に問い合わせしましたが、今回の議論に対して、明確な意見表明ができていない県民児協も少なからずありました。しかし、各会長さんは、民児協に所属する委員の方々との合意形成を大切に単位民児協を運営しており、法改正により全国に網をかぶせ、従来の働きを損ねるような提案にならないように、配慮して頂きたい。

⑤今までの私の経験として、行政主導で制度設計をしても、今までの地道な活動が壊されてしまう危険性があります。そもそも民生委員児童委員に欠員が出ること、またなり手が少なくなっていることは、民生委員児童委員の問題というよりは、地域の問題です。原点は、地域の関係者が、民生委員児童委員に何を望み、どのように協働した取組ができるか、同じテーブルで話して頂きたいと思っており、選出方法の議論だけが先行しても、あまり生産的ではないと考えます。そもそも居住要件が緩和された民生委員児童委員が孤立してしまう危険性すらあると思います。

質問⑵民生委員制度で課題となっている定員割れを解消するためには、今回の居住要件の緩和以外に、お考えになる対策などはございますか?

今回、私が関係している都府県民生委員児童委員協議会等の担当者から意見をお聞きしましたので、検討会の議論との重複を恐れず、要約を以下に書かせて頂きます。なお、これらは、各組織の決定ではありませんこと、お忙しい中現状をお知らせ頂きましたことを改めて申し上げます。

ア民児協:担い手確保の課題としては、民生児童委員の役割や活動内容を地域住民の皆さんに広く、正しく知っていただくことが必要と思います。何をやっているかよく知らないまま、大変そうだと避けられていると思います。また、N県は、定員の充足率は全国的に見て高いですが、委員の再任率が低い(1,2期で辞めてしまう)ことが課題となっています。実践に至っていないものも含め、必要な対応として、以下のようなものが挙げられています。

ⅰ) 業務負担の軽減、働きながら委員を続けられる環境づくり

❶活動範囲、役職の明確化 、❷あて職の削減、❸関係機関との連携体制の構築、❹ICTを活用した負担軽減、❺民生委員に対するイメージの改善

ⅱ)資質向上のための研修

新任委員が早くからやりがいを感じ、民生委員を続けたいと思えるように、資質向上のための研修の充実

ⅲ) 民生委員の活動を支える体制づくり

❶民生委員が必要とする個人情報を行政・関係機関が提供できる体制の整備、❷民生委員の悩みや相談に対する相談支援体制の充実、❸民生委員同志の交流、仲間づくりの場の提供

イ民児協:今年に開催されたブロック民児協会長等会議時の資料「次期一斉改選を控えて~新たななりて確保への取組み~」部分の抜粋です。あくまで、このような意見があった…ということで、統一見解とまでは至っておりませんのでその点は御承知ください

〇委員活動のPR(委員活動の魅力、やりがいを伝え、なり手確保につなげる) 〇一斉改選期に向けた早期の人材の掘り起こし(選考開始時期の前倒し) ○地区内の福祉関係施設(職員)に民生委員と同等の役割を持たせる制度の導入について 〇原則75歳以上となっている年齢要件の緩和について

ウ民児協:推薦母体の拡大(町会・自治体推薦の限界)、民生委員推薦会の実効性ある委員構成と推薦準備会の有効活用(推薦会自体の形骸化)、後任者探しへの行政のコミット(委員任せにしない)など。委員(民児協)側としては、続けやすい(辞めさせない)工夫として「班(チーム)体制の推進」や「コーチ制やメンター制の導入」など。またリモート会議や会議のアーカイブ配信のほか仕事をしながらでも活動が続けられる民児協としての体制づくりなど。さらには活動しやすい環境の整備(普及・啓発や民児協事務局のサポート)や力量の向上に向けた研修の充実、強化、利便性の高い受講形式の提供など。

エ民児協:研修での呼びかけ(民生委員を継続してもらえるよう無理のない活動を心がける等)、年齢要項緩和の要望をしております。

オ民児協:ご質問の件ですが、居住要件の緩和については、O県の民児協としてまとまった見解がないのが現状です。O県域では、今回の検討状況について市町村民児協の会長さんとも情報共有を図っていますが、「賛成」「反対」等の意見は特にだされておらず、動向を注視している状況です。私個人としては、委員が隣の市町村に引っ越した場合でも、残りの任期を引き続き全うできる仕組みをつくっておくなど、一定の条件のもと要件緩和することは、委員選出の選択肢を広げることになるのでは、との考えもあります。ただ、「その地域に暮らしている」ことが、民生委員が民生委員である最大の強みでもありますので、「それなら他のボランティアやNPOに委託すれば?」との議論にもなってくるとも思いますし、当事者である民生委員さんに強い抵抗感が生まれることも理解できます。100年超という歴史ある制度をどう守り、発展させていくのかは、非常に難しい問題ですね。また、他に有効な担い手確保の手立てですが、前から言われている「認知度の向上」「やりがいが実感できる環境」「証明事務等の負担軽減」に加え、「働きながら活動できる環境・風土づくり(ICT活用、定例会の工夫等)」、「協力員制度、班制度」での助け合いの土壌づくりなどに加え、地区ごとに「推薦準備会」を作って地域の幅広い関係者にメンバ-となってもらい、地域のなかで委員選出をする仕組みが有効ではないかと思っています。

現在、自治会を主な選出母体としている市町村が6割程度ありますが、自治会の組織率や加入率が低下するなか、自治会だけに頼ることには限界があります。O県内では、3つの市町村で準備会の仕組みをつくっており、研修などでも今後発表をお願いしているところです。以上、所感及び現状をお伝えさせていただきました。

カ民児協:今回、検討委で議論している居住要件の緩和について、どのようにお考えになりますか?→・現時点では、居住要件の緩和は難しいと考えます。理由)住民や自治会から承認や推薦が得られるか、自治会と密な連携が作れるか。夕方以降や休日の会合や役員会、イベントに参加が可能か、等などの理由が多数あり

・民生委員制度で課題となっている定員割れを解消するためには、今回の居住要件の緩和以外に、お考えになる対策などはございますか?→・上記の居住要件の緩和は難しい問題ですが、今後はこの議論も必要と考えます。民生委員活動(の7つのはたらき)の細分化や役割分担をして、企業や地域(商工会、青年会議所、業種別団体等など)、学生などの他分野の人達に民生委員のサポーターになってもらい、できる仕事を担ってもらうことができれば・・・。・我が県では、欠員の地域もチームワークや「おたがいさま」の心で、何とか乗り切っていますが、これをいつまで続けることができるかわかりません。

質問⑶ここまでの検討会の議論を踏まえ、検討会は今後どのように議論を進めて行くのがよいか?どのような点に気を付けて、議論を進めて行くべきか?

 今は、同検討委員会で互いの基本的な考え方を出し合った段階で、大切な委員会のプロセスだと思っています。そして、委員会において、民生委員児童委員制度を強化していく機会が提供されていると考えています。ただ、民生委員法改正ありきの議論は、検討の趣旨を逸脱してう危険性があります。民生委員・児童委員のなり手を確保するために、また日頃の民生委員児童委員活動をバックアップする仕組みをどうしたらいいのかという本来の議論に戻って頂くことは可能でしょうか。

①そもそも孤立や生活困窮の問題の深刻化、拡大化に伴い、行政だけで問題を解決できない現実がはっきりと見えてきました。

②私は、3区市で介護保険事業計画、高齢者保健福祉計画の策定に関わっていますが、孤立への対応、解決が難しい問題の拡大等に対応する決定的な手段を見出していません。同時に、協働してケアにあたる民生委員児童委員の役割が変化してきたと考えています。どのような地域、地域ケアを目指すのか、また民生委員児童委員の働きを再検証すること、協働した取り組みを目指すことという3つのアクションが各自治体に問われていると考えています。

③民生委員の役割を軽減させるとは、・互いの役割を理解して、協働した取り組みを実践すること、・行政や専門機関が活動をバックアップすること、・民生委員児童委員の優先的役割の明確化すること、等多様です。 (大阪府民生委員児童委員協議会連合会『民生委員・児童委員のお悩み解決!方面道場(基礎編) (応用編)』より)、❶見守り訪問の際、話が続かない。 ❷見守り訪問などで「民生委員の○○です」と訪ねても、受け入れてもらえず、玄関先で追い返されたり、民生委員の関わりを拒否されてしまう。 ❸前任の委員が辞めた後、十分な引き継ぎや研修が無く、委員として何をすればいのか、どうすればいのかが分からない。❹ひとり暮らし高齢者から、ゴミ出しや電球の交換、庭木の手入れなどを頼まれてしまった。❺生活に困窮した対象者からお金を貸してほしいと言われた。❻ひとり暮らし高齢者が倒れ、救急搬送されることになり、救急隊員から「救急車に同乗してほしい」と言われた。❼支援を必要とする人々の個人情報が行政、関係機関等から民生委員に適切に提供されないことがある。❽近隣住民から、頻繁に親の怒鳴り声、子どもの泣き声、大きな物音が聞こえると連絡があり、様子を見ているが、緊急性は無いようにも見える。児童虐待として通報すべきか、しばらく様子を見るべきか。❾近所の方から最近対象者を見かけない、新聞が溜まっていると連絡があった.ドアや窓ガラスを壊して確認すべきなのか、等の活動における問題が明らかです。統一的見解は出されていると思いますので、各地域で確認して頂きたい。

④私は、『単位民児協運営の手引き[令和4年3月版]』(全国民生委員児童委員連合会)に書かれているように、民児協は「垂直型」の組織(上意下達型の組織)ではなく、会長等を含め、すべての委員が対等な立場で活動に参加する「水平型」の組織であることを意識し、お互いを尊重し、自由に発言できる民児協運営を意識し、以下の役割を担うことを期待しています。

一 民生委員が担当する区域又は事項を定めること。 二 民生委員の職務に関する連絡及び調整をすること。三 民生委員の職務に関して福祉事務所その他の関係行政機関との連絡に当たること。四 必要な資料及び情報を集めること。五 民生委員をして、その職務に関して必要な知識及び技術の習得をさせること。六 その他民生委員が職務を遂行するに必要な事項を処理すること。

 この基本的役割を遂行できるように、行政・社協担当者も役割を明確にして頂きたい。

⑤居住要件緩和がありきでなく、出された意見聴取検討課題の全体像と討議スケジュールを明らかにすること。そして改革を進めることによって生じる危惧に対して軽減する方法を具体的に討議すること、そして軽減する場合には、全国に網を被せるのではなく、特例を設けて施行して、評価する期間を設けることが大切だと思いました。