思い出記2003年度(出会い)-2

つつじ絢爛

 近くの井の頭公園で、たまたま「皐月会」の品評会を見た。夕暮れの6時頃であったために、見物人はほとんどいなかったが、並ぶ何十ものつつじの鉢植えに引き付けられて、思わず自転車を降りた。
一本の木から、色の違うつつじの花が咲いているもの。花で枝が折れそうなぐらい咲き乱れているもの。静かにバランスよく花が咲いているもの等々、私にはとても面白く思えた。
そして、井の頭公園の木々に囲まれ、しかも夕暮れ時に、花を照らす裸電球に、風情を感じる。

三鷹の森ジブリ美術館

 三鷹駅より専用バスに乗り、井の頭公園の中にあるジブリ美術館に到着することができる。その建物は、公園の木々や土、草花と調和し、独特の空間を創り出している。互いに排除せず、共存しつつ、かつ個性を強く主張する。互いが活かされる関係。

 切符を渡し、美術館に入った瞬間、宮崎駿監督の世界に引き込まれる。すべての窓に張られるステンドグラス、地面から天井までの空間を横切る渡り廊下、絵を幾重にも並べ光を工夫することによって立体的に見えるパノラマボックス、子どもが思いっきり遊べるネコバスのぬいぐるみ、屋上に立つ巨大なロボット兵、おしゃれな喫茶室、驚くほど多種にわたる色彩とデッサンの絵、そして筆が置かれ、思わず自分が作業をしているような錯覚をもつ作品準備室。まさに宮崎駿監督の世界で実在するものと出会うことができる。

 美術館のイメージについて、監督はこう語る。

「こんな美術館にしたい!
おもしろくて、心がやわらかくなる美術館
いろんなものを発見できる美術館
キチンとした考えがつらぬかれている美術館
楽しみたい人は楽しめ、考えたい人は考えられ、感じたい人は感じられる美術館
そして、入った時より、出る時ちょっぴり心がゆたかになってしまう美術館!

そのために、建物は・・・
それ自体が一本の映画としてつくりたい
威張った建物、立派そうな建物、豪華そうな建物、密封された建物にしたくない
すいている時こそ、ホッとできるいい空間にしたい
肌ざわり、さわった時の感じがあたたかい建物にしたい
外の風や光が自由に出入りする建物にしたい

運営は・・・
小さな子ども達も一人前にあつかいたい
ハンデをもっている人にできるかぎり配慮したい
働く人が自信と誇りを持てる職場にしたい
道順だの、順路だのと、あまりお客さんを管理したくない
展示物に埃がかぶったり、古びたりしないようにいつもアイデアを豊かに、新しい挑戦を続けたい
そのために投資を続けるようにしたい

展示物は・・・
ジブリファンだけがよろこぶ場所にはしたくない
ジブリのいままでの作品と絵が並んでいる「おもいで美術館」にはしたくない
みるだけでも楽しく、つくる人間の心がつたわり、
アニメーションへの新しい見方が生まれてくる場所をつくりたい
美術館独自の作品や絵を描き、発表する、
映像展示室や展示室をつくり、活き活きと動かしたい
(独自の短編作品をつくって公開したい!)
今までの作品については、より掘り下げた形で位置付けて展示したい

カフェは・・・
楽しみ、くつろぐための大事な所として位置付けたい
ただし、多くの美術館のカフェが運営困難になっている現状からも安直にやりたくない
個性あふれた、よい店をまじめにつくりたい

ショップは・・・
お客さんのためにも、運営のためにも充実させたい
ただし、売れればよい式のバーゲン風安売り店にしたくない
よい店のあり方を模索しつづけたい
美術館にしかないオリジナルグッズをつくりたい!

公園との関係は・・・
緑を大切にするだけではなく、10年後にさらによくなるプランをつくりたい
美術館ができて、まわりの公園も豊かになり、公園がよくなって
美術館もよくなったといえるような形と運営を探し、見つけたい!

こういう美術館にはしたくない!
すましている美術館
えらそうな美術館
人間より作品を大事にしている美術館
おもしろくないものを、意味ありげに並べている美術館

三鷹の森ジブリ美術館 館主 宮崎 駿」
(『三鷹の森ジブリ美術館 図録』前文、財団法人徳間記念アニメーション文化財団発行、2002年4月30日初版)