第39回ICU教育セミナー基調講演
2016年8月4日・5日の両日、ICUにおいて、人権・平和と教育を総合テーマに、第39回教育セミナーが開催された。私は、ICUで、教職課程の社会福祉概論を担当させて頂いて5年ほどになる。授業は1タームに過ぎないが、学生諸君と話し合い、進めていく学習塾のような科目にしており、学生一人ひとりの印象が強い。参加者の中には、私の授業を受け、教員になった方が何人もおられ、私にとっては、同窓会のような雰囲気で2時間半の講演をさせて頂いた。感謝。
基調講演<子どもの命、尊厳、生活を守る〜「おめでとう」で始まり、「ありがとう」で終わる人生を大切にする社会づくり>
Ⅰ)子どもが直面している断絶
1.「生きること」と「生きていること」の断絶
①インターネット世界に住む自分と実社会に住む自分
②生み出されるクローン現象
③ロボットは人格を持ちえるか
2.「生きること」と「生きていくこと」の断絶=「過去」「今」「明日」の断絶
①人生が見えない ②希望が見えない
青少年にとって、人生が見えない理由の1つは、将来に向かって希望が見えないこと。ある小児科医が、多くの青年が非行にはしらない4つの理由をあげた。第1は、適度な忙しさ、第2は関心事があること、第3は家族や友人との心の繋がり、第4は明日への希望である。財産を失うと生活の危機、プライドを失うと心の危機、希望を失うと存在の危機と言われる。今、希望を持てず、また希望を求めてさまよい続けている青少年は少なくない。
③自然に育まれて生きる姿が見えない
3.「生きること」と「生かされていること」の断絶
①冷戦状態にある自分の心
②人間関係を奪う社会
③苦しみを避け続けると、他人の苦しみも理解できない
4.共に生きていく人々の間の断絶
①コミュニティはあるのか
②日本に高齢者文化・障害者文化は根付いているか
③日本に他文化を受け入れる土壌はあるのか
④そもそも日本に、成熟した福祉文化はあったのか
5.利用者本人と専門職の断絶(問われている専門性)
Ⅱ)子どもを追い詰める要因
1.子どもの貧困
①厚生労働省によると、日本の子どもの貧困率は2014年で16.3%(2014年)で、過去最高を更新。実数で約328万人。
②一人親など大人が1人の家庭に限ると54・6%と、先進国最悪の水準。
③中でも深刻なのは、母子世帯。母子世帯になる原因の8割は離婚で、養育費が払われているのは約2割。8割の母親は働いているが、同居親族も含めた年間世帯収入は平均291万円(10年)。
(2015-10-10 朝日新聞 朝刊)
④2016年4月現在、生活保護を受けている世帯は、1,632,271世帯。世帯類型は、高齢者世帯が51.1%、母子世帯が6.1%、傷病者・障害者世帯が26.5%、その他の世帯が16.3%。なお、保護率は母子世帯が高く、近年で見るとその他の世帯の増加が顕著。(厚生労働省)
2.虐待に至るおそれのある要因(リスク要因)
(1)保護者側のリスク要因①妊娠そのものを受容することが困難(望まぬ妊娠、10代の妊娠)②子どもへの愛着形成が十分に行われていない。(妊娠中に早産等何らかの問題が発生したことで胎児への受容に影響がある。長期入院)③マタニティーブルーズや産後うつ病等精神的に不安定な状況④元来性格が攻撃的・衝動的⑤医療につながっていない精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存⑥被虐待経験⑦育児に対する不安やストレス(保護者が未熟等)
(2)子ども側のリスク要因①乳児期の子ども②未熟児③障害児④何らかの育てにくさを持っている子ども
(3)養育環境のリスク要因①未婚を含む単身家庭②内縁者や同居人がいる家庭③子連れの再婚家庭④夫婦関係を始め人間関係に問題を抱える家庭⑤転居を繰り返す家庭⑥親族や地域社会から孤立した家庭⑦生計者の失業や転職の繰り返し等で経済不安のある家庭⑧夫婦不和、配偶者からの暴力等不安定な状況にある家庭⑨定期的な健康診査を受診しない 出典 厚生労働省『子ども虐待対応の手引き』
3.子どもの命「こうのとりのゆりかご」 熊本の働きです。
①5年間で、保護した乳幼児は90人近い。そのうち県外が70%近い。
②相談件数は年々増加し、23年度は690件。年齢は15歳未満2%。15歳から18歳未満7%、18歳から20歳未満7%で、16%に及ぶ。20台は40%で、約60%が30歳未満。理由は、不慮の妊娠。誰にも言えずに葛藤の中にあり、助けを求めている。これは、事実です。また、子どもは親に育てられるもの。預けられた子どもはいつまで親を待つのかと、熊本の慈恵病院看護師長の田尻さんは言いました。子どもの視点から見ると、大切な親子関係が見えない。 2013年地域福祉学会シンポジウム
4.複合的・重層的な要因
埼玉・川口市祖父母強盗殺人事件
Ⅲ)子どもをめぐる支援施策
1.生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)について
2.「社会的養護の課題と将来像(概要)」
3.子どもの貧困への対応
Ⅳ)目指す地域社会
「子どもの誕生を祝い、おめでとうと言う。そして、人生の最後にあって、世話をしてくれた人に感謝して、ありがとうと言う。おめでとうに始まり、ありがとうで終わる一人ひとりの人生」を目指すこと(『知の福祉力』人間と歴史社)
基本的視点1 共助社会づくりを進めるための検討会『東京における共助社会づくりを進めるための取組について 〜お互い様の心を大切にした社会を〜』 提言平成27年12月16日
基本的支援2 人口減少社会における多世代交流・共生のまちづくりに関する研究会『多世代交流・共生のまちづくりの施策・実践と地域社会の挑戦』 全国市長会2016年7月発行予定
1.生命の尊重
皆、神様から祝福されて命を与えられた。彼らの笑顔を私たちが守る
2.子どもを育てる地域
①誰もが当事者(福井県新庄小学校)、生かされている喜び
②自分にとって、居場所、誇り、愛着がある育つ場を地域がつくる(上越市自由学園)
3.学校教育プログラムに組み込んだ学習
事例1:宮崎県日向市大王谷学園初等部の福祉教育実践(福祉教育プログラムを活用した多世代交流・共生のまちづくり)
事例2:武蔵野市セカンドスクール
事例3:東京都三鷹市のコミュニティ・スクール(Community School)
4.地域が進める多世代交流
笛吹市NPOハッピースペースゆうゆう親子ボランティア抱っこsase隊
5.遊び場を通した多世代交流
6.予防は、住民が当事者として登場
7.世代を超えた寄り合い所=地域
8.コミュニティ住区と地域ケアネットワーク
9.様々な団体による子ども食堂
10.地域ふれあいホーム(「地域の縁がわ」の発展)
Ⅴ)明日の地域社会を描く
被災地の復興は、私たちの未来である
1.連帯
2.活動の原点を学ぶ
①「高齢者」「ご老人」「円熟者」?自分の名前で呼ばれたい。
「仮の生活」「仮の人生」はない。「被災者なんだから」という考えは、「高齢者なんだから」「障がい者なんだから」という考え方に通じる。(厚生労働省前対策責任者より)
②そもそも制度が、専門家が、事業者が、利用者の実像を見えにくくしていないだろうか。被災地では通用しない。生活者としての、住まい、仕事(産業)、援助(福祉)、生活環境、絆が、それぞれにあった自立の支援に結びつき、明日への希望と繋がる。
③地域の再生という視点からの復旧・復興が大切。全国各地で行われている「まちづくり」「福祉でまちづくり」と共通である。
④寄り添うケア。時を経て、状況が変わる。それぞれのニーズに対応していくこと。「靴に足を合わせるのではなく、足に靴を合わせる」という原点に立ち返る。
⑤忘れないこと。互いに理解し合うこと。学ぶこと。0か100ではない活動。これは地域の活動の歴史そのものである。
3.共に明日を目指して
被災地を訪問し、生活の拠点を失った方々の生活の場が、未だ築かれていない現実、支援が遅れている現状を見続けてきました。原発被害で、戻れない方々がたくさんおられます。
しかし、この現実を忘れず、また自分たちで、コミュニティを再建しようとする地道な歩みと足を揃えることが、今、本当に求められていると思います。明日を目指して、被災地で生まれた「希望の働き」と共に歩みたい。
そして、日本全国で、今回の死亡者、行方不明者の数を超える人たちが、自殺、孤立死している現状に、少しでも挑戦したいと思っています。
すなわち、被災地支援を通して、今、日本社会が求めている「希望」と「絆」を再生していくこと。今は、それぞれの場で、互いに支えあい、生きていくことが大切な時期になっています。
私は、その基盤を築き、若者たちが、希望を持って生きていくことができる社会づくりに努力したいと再度思いました。
投稿日 16年08月06日[土] 10:34 PM | カテゴリー: 大学関連