伊豆の醍醐味

東伊豆の中央から、下田、波勝崎、堂ヶ島温泉、土肥、修善寺を通り、東伊豆にもどる1泊2日の車の旅が、本年の最後の旅である。前日の雨が嘘のように、空は青く、陽射しが強い。

<ペリーロード>

何度も東伊豆には来たことがあり、熱川での同年齢の研究者たちの研究会は、慰労会に変わったが、約25年間続いている。一気に下田に南下し、ぺリーロードで食事をすることにした。伊豆急下田駅から近いところにあるのだが、私たちにとっては、はじめての場所。黒船のペリー長官に由来がある。

川に沿って、古い建物が並ぶ。いくつかの店の西洋の雰囲気と、やなぎが葉を揺らす日本的な趣とのバランスが、なかなか個性的である。

<波勝崎>

次に波勝崎に向かう。言うまでもなく、猿を餌付けしている場所。大学生の時に、ボランティアで小学生の修学旅行に同行し、車椅子を押しながら自分の方が興奮していたのは、今から約30年前。でも、餌をやる小屋があったかどうかは、定かでない。1匹のボスを中心に、たくさんの猿が群れをなし、秩序がたもたれている。

小屋からのみ、餌をやることが許されているが、外から見ると、おりをはさんでどちらが主人公かわからない。「餌をあげている」のか、「餌をもらっていただいている」のか。そして餌をあげ切って、小屋から出ると、今までのことは一切記憶から消え去り、猿と人はあくまで他人の関係。なにしろ、餌をあげている人も、ボス以外は見分けが付かないし、猿も餌を見ているのであって、誰がくれるかに関心がない。淋しい気もするし、さっぱりとした関係も良い。

<エキサイティング・ロード>

波勝崎から西伊豆の道路を北に向かっていく。その風景は、まさにバラエティに富む。東伊豆が、海岸と遠方に見える大島、初島などを見ながら、風景を楽しむことができ、天候の良い時は癒しのロードである。これに対して、西伊豆は、富士山や雪の積もる山脈が、突然対岸に現れ、その意外さに驚かされるエキサイティング・ロード。あたたかな気候の西伊豆に対比される対岸の自然の厳しさに出会い、思わず声をあげてしまう。また夕日が丘から見ると、海は一面に広がり、太陽が海面を照らし、キラキラと海が光る。そして一筋の光のじゅうたんが地上と太陽を結ぶ。夕日でなくとも、十分満喫できる。


海に沈む夕日

遥かなる昔から、太陽が昇り、そして沈む時が繰り返されている。これは、自然にとって、きわめて当たり前のことであり、地上の生命体は、その繰り返しに応じた生き方を身につけた。夜は休み、夜露をため、そして日中の熱い日射しに耐え、光合成という生命のメカニズムによって生命力を得る植物、夜に活発化する動物や昆虫、そして当然、夜を休息の時として日の出を合図に仕事を始める人々等々、日の出と日没は、大切な自然の体内時計である。

東京に住む私にとって、太陽はいつも陸から昇り、陸に沈む。そして夕日を見て、ある時は喜びの気持ちを抱き、ある時は悔しい気持ちをぶつけ、ある時は明日への夢を委ねる。ただ、いつも丘に沈む。いつから夕日と言うのか、定かではないが、私にとって、太陽はまぶしく輝くもの。夕日は心で受けとめる赤い魂。

今年最後の旅に、私たちは西伊豆を選んだ。堂ヶ崎温泉ホテルに宿泊し、海岸を見ると、まさに3つの丘があり、その狭間から、夕日が海に沈む。沈む速度は同じはずなのに、なぜか夕日は、最後の時、急に速度を速めて海に吸い込まれるように感じる。そしてその時の輝きが、一番美しい。

夕日が見えなくなってから、数10分の間、赤い炎が地平線いっぱいに広がり、海の中から燃え尽きるまで輝いていた。