本物のコミュニティ(半田市での出会い)

2009年10月の早朝、私は半田市を探索しました。知多半田駅前のホテルを朝6時に出て、JR半田駅の明治43年に設置された跨線橋を見、酢で有名な工場を通り、半田運河にたどり着いきました。その時、徐々に明るくなっていた運河を取り巻く家や木々を、太陽が赤く染めていきました。

半田市には、たくさんの旧い家が残されていました。小栗家住宅、国盛酒造、昔ながらの黒い塀で続く紺屋街道、旧中埜住宅を見ながら歩きました。

また、歩いていると十字架が見え、その教会が礼拝でメッセージをする日本ルーテル知多教会であることを知り、心を引き締めました。そして旧カブトビール工場である赤レンガ建物に行き、思わずドイツ風のすばらしい建物に見とれてしまいましたが、その壁のいたるところに弾丸の跡が残されていました。

さらに私は、地図に書かれている天然記念物「イブキ」を探していました。しかし、なかなか見つからず迷っていると、犬を連れた女性が歩いてきました。そこで、場所をお聞きしましたが、その方は、ご親切にも「イブキ」の場所まで案内して下さいました。私は、イブキの前に来た時に、その女性の方がおっしゃった言葉が、私にとってとても印象的でした。その方は、木を示して、「どうぞ」とおっしゃったのです。

お客様に自分の家に入っていただく時には、「どうぞ」と言います。自分の大学にゲストをお連れした時も、どうぞと言うでしょう。しかし、私は、まったく知らない方を、尋ねられて地域の名所にお連れした時に、「どうぞ」と言うでしょうか。

「どうぞ」とは、自分と関わりの深いところを案内する時に使う言葉。この場に愛着やアイデンティティがあり、また地域が自分の生活の場として身近でなければ、案内して、この言葉が自然には出てこないでしょう。

「どうぞ」という当たり前の言葉が自然に出る地域での絆を、取り戻すことが必要ではないでしょうか。普段、気がつかないところに、すばらしいものがあります。