2006年04月の投稿

「神学と社会福祉学からみるキリスト教社会福祉」研究の動き

日本キリスト教社会福祉学会会長阿部志郎先生は、この3年間を、学会全体で、学びを蓄える時としてとらえ、「神学と社会福祉学からみるキリスト教社会福祉」研究の重要性を説かれた。阿部会長の方針に則り、関東地区、中部地区、近畿・中国地区、九州地区のブロックごとに研究会が立ち上げられ、個別の研究が進められた。

関東地区:
「福祉理解と教会理解」(森一弘先生)
「今日における人間理解と教会」(大宮溥先生)
公開シンポジウム 「キリスト教人間理解」*原稿
「ディアコニアの一つの視点」(江藤直純先生)
「人間の尊厳を発見・支える仕事ーディアコニア」(関正勝先生)
「ヘンリ・ナウエンの福祉思想ースピリチュアリティと<創造的弱さ>をめぐって」(木原活信先生)
「弱さの神学」(米田綾子先生)
「マタイ福音書の山上の説教ー平和へのメッセージとして」(森一弘先生)
中部地区:
「今まで私が行ってきたディアコニア研究の動向と課題」(坂本道子先生)
「NPOのマネジメント–<止揚学園>の事例から」(大沢先生)
近畿・中国地区:
「ディアコニアの現代的展開」(石居正己先生)
「外国籍住民と共に生きる社会」(M.メンセンディーク先生)
「ディアコニー関係ドイツ語圏文献解題」(畑祐喜先生)
「キリスト教社会福祉の意義とその使命」(シンポジウム)
「カトリック社会福祉の歴史的変遷」(田代菊雄先生)
九州地区:
「キリスト教社会福祉–ディアコニーの源流」(山城順先生)
「ディアコニアの思想の一考察」(門脇聖子先生)

また、それらの研究成果をとりまとめるべく、以下のシンポジウムが開催された。

  • 「人間理解」2003年3月・ルーテル学院大学<研究会シンポジウム>
  • 「いのち こころ 生活–キリスト教社会福祉実践に生きる」2004年3月・救世 軍本営<21世紀キリスト教社会福祉実践会議第4回大会>
  • 「キリスト教社会福祉の存在意義とその使命」2003年11月・キリスト教ミード 宮原センター<学会2研究会共催シンポジウム>
  • 「キリスト教社会福祉の使命–神学と社会福祉の対話」2004年7月・中部学院大 学<本学会全国大会>)
が開かれた。

研究会の基本的考え方を、私は以下のように考えている。

  1. Whom キリスト教人間理解(研究会)2003年3月公開シンポ
  2. Why 使命・目標・考え方(研究会)2003年7月、04年6月 学会シンポ
  3. When 歴史研究 2004年6月 学会自由報告(研究依頼)
  4. Who What Where 実践(21世紀キリスト教社会福祉実践会議)04年3月

  *可能ならば、実践会議における討議内容も含め、出版を目指す

<第1回研究会において提示された今後の研究課題>

  1. 社会福祉に関する現状認識
    1. 社会福祉を取り巻く環境の変化
      1. 少子高齢化による高齢社会へ
      2. 家族機能の低下
      3. 介護や養育等のニーズの広範化
      4. 精神的不安・孤独、孤立への対応の必要性
      5. 虐待、精神障害、痴呆、自殺等の問題の顕在化
      6. ホームレスや在日外国人を排除する現状
    2. 社会福祉の質的転換
      1. 新しい公共性(行政・民間の限界と可能性→パートナーシップ)
      2. ソーシャルインクルージョン(共生の社会づくり)と社会福祉の普遍化=閉ざされた福祉を開く
      3. 行政依存から対等のパートナーシップ=防衛的福祉から開発的・先駆的福祉へ=ボランティアリズム
      4. サービス中心から利用者中心への変化=利用者の選択、満足度重視
      5. 福祉六法による縦割り福祉→市民・住民、地域という視点による再統合
      6. 新しい文化の創造=まとづくり、参加型社会づくり
      7. 地方分権と地域間格差、小地域における助け合いの重視
  2. キリスト教社会福祉を研究する視点
    1. 教会と社会福祉
      1. 福祉国家=生活保障=公共性→教会の働きとしての福祉事業からの撤退はなかったか?
      2. 1961年にニューデリーで開かれたWCCで登場した「ソーシャルディアコニア」の考え方が、政治に特化し、それ以降、社会福祉の働きが見逃されてきたことはなかったか?
      3. 社会福祉の一般化、社会化によって、敢えて宗教色すべてが薄められてきたことは、正しかったか?
        またそのことをもって、社会福祉の働きが世俗化したと言うべきであろうか?
      4. 社会福祉事業を生み出し、支えたのは、教会自体か、一部の教会員か、宣教師個人か?
      5. 神の国の福音を述べ伝えることと、福祉事業・実践を神学的に整理する視点は?
    2. キリスト教社会福祉研究の過去と現在
      1. クリスチャンワーカーが取り組むべき使命を明確にしてきたか?
      2. ワーカーが拠るべき視点を明確にし、その働きに貢献してきたか?
      3. 社会福祉=国家概念にとどまり、神学的ビジョンを提示してきたか?
      4. そもそもキリスト教社会福祉学会の存在意義は何か?
      5. 今日の多様なニーズに対して、どのような理論構成をしているか?
      6. 働く者に対する社会的地位の向上に貢献してきたか?
      7. アジアという文化の中で、スピリチュアルの意味は?
      8. 神学がキリスト教社会福祉と関わる際の、信仰告白の意味をどのように位置付けるか?
      9. クリスチャンとノンクリスチャンの壁を高くすべきではない。その際の協働について、十分議論してきたか?
  3. 研究課題
    1. 人間理解「いと小さき者」=「人間の弱さ」
      • 一人=ペルソナの重視
      • 一人と一人の関係性の重視
      • 連帯する個人=コルプス
    2. 働く人々の社会的地位
      • 専門職の意味
      • 市民として参加し、コミュニティを築いていくことの意味=ボランティアリズム
    3. エキュメニズムの理解
    4. 施設主義から在宅主義へ移行する中で、教会の役割
    5. 福祉文化の形成とキリスト教社会福祉の役割
    6. 今を確認し、将来を展望する視点の模索
    7. 各教派の社会福祉施設・機関に対する関わりの実証的検証

以上を検証することによって、「地の塩 世の光」としてのキリスト教社会福祉の本質に迫りたい。


ちなみに、2004年日本キリスト教社会福祉学会全国大会において、「キリスト教社会福祉の使命ー神学と社会福祉の対話」をテーマに、市川がコーディネーターの役割を与えられた。各シンポジストのレジメを紹介したい。

北村 次一氏(関西学院大学)

  1. 最初の社会福祉家イエスに聴く
    「神学と社会福祉の対話」を具現しユダヤ世界に