それは、民生委員児童委員の問題ですか、それとも地域全体の問題ですか。〜多くの民生委員児童委員の方々にお会いして〜
コロナウイルス感染症は今までの関係を打ち砕き、不安、 恐怖、不信、怒りを生み出し、負の連鎖が広がっています。そして、貧困の拡大、関係性の危機の深刻化、虐待の増加が複合的に拡大し、私たちは未曾有の危機に直面しています。
私は、5区市行政、社協の計画策定に関わり、また東京都行政、東京都社協、全社協、厚生労働省の検討委員会で委員として、現在の地域生活問題と取り組みについて話しあっていますが、本年は、今まで経験したことのないほど、困難に直面している人々が広がっていることを実感しています。しかし、それに取り組む担い手が、日々仕事に追われ、疲弊しています。さらに、社会福祉を目指す人材が減り、福祉系大学、専門学校もダメージを受け、専門的福祉教育機関が危機に直面しています。ルーテル学院大学も、長く福祉教育の先頭に立ち、教育を進め、たくさんの卒業生がたくさんの分野で働き、社会的にも貢献していますが、経営は厳しいです。また、社会福祉現場では、応募しても人材が来ない状況が続いており、ケアマネージャーやケアワーカー、ソーシャルワーカーの確保が、各計画の緊急課題となっています。今まで、社会の根幹を築いてきた社会福祉活動や制度の根幹が揺らいでは、決して希望ある未来を描くことできないと心配しています。幅広い担い手が、当事者と協力して、共生社会づくりに取り組んでいくこと、一人ひとりの可能性を信じ、当事者の方々と共に歩んでこられた先人の実績を継承することが、切に望まれています。
私は、いつも以下の3点を申し上げています。⑴自らの働きを問い直す(コロナによって、さまざまな活動が止まり、孤立等の問題が深刻になった。改めて働きの意味・目標を確認し、実現可能な方法を見いだすことが必要である)、⑵あるべき地域ケア、地域の姿を描く(今日、地域共生社会づくりが目標とされ、実際に、各地域において、取り組まれてきた。 今、改めて問われている。「何をしたいか」「何ができるか」「何が求められているか」)、⑶協働した働きを強める (これからの勝負は、コミュニティの再生。様々な方法 を開発し、地域にある資源を掘り起こし、今まで築いた実績の上に、さらに協働した働きを始めたい。)ことを目指したいと思っています。
本年は、民生委員大学、石川県、宮城県、福島県、京都府、長野県、愛媛県、石巻市・女川町・東松島市ブロック、新潟市、川崎市、静岡市等のたくさんの自治体を訪問し、民生委員児童委員活動について講演を行い、今後、千葉県、さいたま市等も予定されています。私は、それらの研修を通して、委員の方々の日々の活動とお悩み、ご苦労をお聞きしました。本当に頭が下がります。そして、私は、そのお悩みが、委員だけの問題ではなく、まさに地域の問題だと考えています。委員だけにお任せするのは、全くおかしいですし、多くの福祉関係者もそう思っているのではないでしょうか。
たまたま、昨日、卒業生から、ラインが来ました。「先ほど残業中に警察から連絡が入り、孤独死した高齢者宅に、民生委員の名刺代わりのカードがあったから、生存時の状況知りたいから直接話したく、携帯番号教えて欲しいと」と問い合わせがあったとのこと。私は、「亡くなられた方の自宅にあった名刺が、その方の生きてきた証とは、あまりに悲しいね。でもこれが現実だね。何としても絆を取り戻そう」と返信しました。
地域の問題には解決困難な事例も少なくありません。しかし、地域の問題を地域で解決しようと、試行錯誤をしながら活動しておられる民生委員児童委員を理解し、応援するために、私は、以下のような取り組みを強化することが必要と思います。民生委員児童委員の苦労は、地域全体の取り組み課題そのものです。
そこで、私は、以下の点を強調したいと思っています。
⑴民生委員児童委員の役割と期待される活動について、ケア会議、計画策定会議、定期的な地域での話しあい等で確認し、合意を図ることが必要です。「自分が民生委員児童委員であったらできないことを民生委員に頼むことは、専門職、担当者の責任放棄である」といつも申し上げています。また、住民の孤立を防ごうとしている民生委員児童委員が孤立しては,活動が停滞してしまいます。選出方法、バックアップ方法を含めて、上記⑴⑵⑶の方針を、地域の関係者で確認して頂けないでしょうか。
たとえば、個人情報に関しては、各自治体で取り扱いが違い、たとえば災害時要援護者をどのように把握し、対応していくか、関係者の戸惑いは少なくありません。全国民生委員児童委員連合会は、令和5年5月に、『民生委員・児童委員活動に関する指針』を出し、災害に備える民生委員・児童委員活動の基本的考え方】として、1災害の発生が迫っている場合や発災直後は自らと家族の安全確保が最優先、2平常時において、地域ぐるみの要援護者の支援体制づくりに協力する、3発災後、安全が確保できた後、無理のない範囲で要援護者支援に協力すると示しています。防災・災害対応の責任は、基本的に行政にあります。ただ、発災の前後には、災害時要援護者の支援にとって、置かれている状況を把握する民生委員児童委員や近隣住民の役割は貴重だと思います。
また、認知症ケアや介護予防は、孤立予防であり、まちづくりそのものです。あり方を検討する中で、民生委員児童委員の役割の検討も加えて頂きたい。
⑵民生委員児童委員の活動を応援するための学ぶ機会、話しあう機会を大切にして頂きたい。ご提示しましたアンケート結果から、民生委員児童委員の方々が、住民の悩みを解決したいと日々葛藤なさっており、その意欲に応えるために、基本的な原則を含め、一人で抱え込まないで協働して取り組むことの大切さを継続的にお伝えすることが必要と思っています。例えば、初任者にとって、訪問活動でどのように住民に声を掛け、何を目的に住民との関わりを続けていくのか等、一つひとつの丁寧な確認が必要と思います。
私は、講演の前と後で、参加なさった民生委員児童委員の方々の表情が変化し、新たな気持で日頃の活動に取り組もうとして下さることをいつも願っています。
⑶なお、大分市の民生委員児童委員活動を支える仕組みは参考になります。愛媛県の研修の資料に掲載されていますので、ご覧下さい。
https://www.dropbox.com/scl/fi/8wwspgdpt2djugt90jaq4/2023.pdf?rlkey=1e75ocgl4ua3972q5w3vmzua2&dl=0
また、一日民生委員活動も実践されています。
https://www.dropbox.com/scl/fi/j3k39u3entl4czymeaggm/78.pdf?rlkey=wkx23ztta39eqk559m3458e5r&dl=0
⑷多くの講演(愛媛県民児協の研修レジメ参照)で述べていますが、単位民児協の役割と可能性について、十分議論をして頂きたい。そこでの定例会は、個々の方の疑問や要望にお応えできると大切な場所でり、様々な工夫がなされています。いろいろな情報を得て、何が自分たちにふさわしいか、検討して下さい。また、所属メンバーと一緒に、地域の資源(ひと:当事者、住民、民生委員児童委員、ボランティア、専門職等、もの:サービス、地域包括支援センター、児童相談所等の機関、コミュニティセンター等の施設、そして住民関係、知らせ:ニーズに関する情報、施策に関する情報等)を確認する作業をして頂きたい。
⑸それぞれの市町村行政、社協の事務局の強化が必要です。事務局は、地域ケアにおける協働の目的と意味を確認し、それぞれの地域に合った研修計画、活動支援計画を民生委員児童委員と一緒に立てて頂きたい。
私は、民生委員児童委員をめぐる議論は、どのような地域、地域ケアをつくっていくのかという、地域の関係者が住民とも相談しながら確認していくことであると思います。繰り返しになりますが、これだけ深刻な社会福祉問題が広がっている現在、私たちは当事者です。困難に直面する方々の支援が広がることは、自分自身が困難に直面しても、誇りを失わず、安心して生きていくことができる地域社会を築いていくことに他なりません。
私には孫がいます。彼らにこのような社会を受け継ぐことはできない。少しでも問題に取り組み、明日を夢見ることができる社会を受け継いでいきたいと思ってます。ジイジは、黙っていられない。