トロッコ列車

 宮崎県北部の高千穂と延岡間を走る電車に乗ることができた。日之影町で勉強させていただき、日之影温泉駅(駅の2階が温泉浴場になっている)から延岡経由で宮崎に向かう、約2時間30分の旅である。昨日の大雨が嘘のように空は快晴、日の下は汗が吹き出るような暑さだが、日陰はことのほか涼しかった。
 1日の数本のトロッコ列車(400円の追加料金)が走る。日之影町のお計らいで、トロッコ列車に乗ることができた。列車は、川の両側を、たびたび橋で渡りながら、滝、見上げる大きな橋、急な流れ等々の見せ場を通過する。特に、川を渡る時の風景のすばらしさとそれぞれの橋の個性に、私は強く引きつけられた。対岸から川を渡り、向こう側の緑の中に一気に吸い込まれていき、そしてしばらくして視界が広がり、川の流れと人々の生活に出会う。それぞれの橋には、名前があるのだろうが、私には、眼鏡橋、黄金の橋、ブロック橋等々、思い出橋の風景が心に刻まれた。また、見上げると、川面まで数百メートルありのだろうか、いくつもの大きな橋が丘と丘を繋ぐ。
 トロッコ列車は、私たちの夢をのせて、いつまでも走ってほしい。自然の中にあるコミュニティと、巨大都市という仮想コミュニティとを繋ぐ貴重な架け橋のように思えてならなかった。互いの求めることが見つかれば、きっと未来への架け橋になる。

日之影町訪問記録

時:9:30〜11:00 民生委員の方々への講演
   「地域福祉と民生委員の役割」
  11:00〜12:20
    地域福祉計画・地域福祉活動計画についてのヒアリング
  13:10〜14:00 川又地区いきいきサロン

 熊本で3日間開催されたるうてる法人会連合総会、ルーテル諸学校代表者会を終え、午後3時のバスで宮崎北部の山間地に向かう。空は、雨で覆われ、阿蘇は嵐の中。黒川温泉に行く時もそうだった。また空から見る阿蘇は、時々荒れていた。だからこそ、阿蘇は雄壮なのかもしれない。
 翌日、日之影町を訪問する機会を与えられた。あくまで、私自身のお願いであり、すべて自前でするつもりだったが、日之影町は、民生委員の方々にお話をする機会をつくってくださり、また町を案内してくださった。
 宮崎県内の中山間地の過疎問題への取り組みを進める委員会の委員長を仰せつかっており、今回はほんとうに大切なアイデアを得ることができた。 以下、私の意見をお渡しした。
1.民生委員研修
 非常に誠実、かつ実直な方々で、隣人愛に根ざした使命感をお持ちのように思えた。これは、町の大きな資源。このネットワークをいかに小地域活動に結びつけるか、また活動の効果を高めるために、行政、社協、町の保健医療福祉専門職がどのようなバックアップシステムをとることができるか、個別検討を含めて、問われていくことになると思います。
2.人口の減少が続いている現在、非常に難しいことかもしれませんが、安心して生活できる、どのような町をつくっていくのかという展望が見せられないでしょうか。人生の定年は、生命を失う時。それまで、以下の豊かに生きていくか、それを支えるこの5年の目標を立てる必要があります。
そのために必要なことは、予防、自己啓発、近隣の助け合い、サービスの内容や運営方法の相違工夫です。これが総合的な日常生活支援となります。そのために、行政や社協の役割があり、こだわりがあると思います。
3.実施主体、運営方法をより明確にしていただくことが大切です。両計画を一体でたてることは十分考えられるのですが、実際に責任が不明確になる危険性が十分あり、結果として機能しない計画になってしまいます。
住民も含めて、それぞれが何をするのかということの合意をすすめてください。
4.優先的に進めるものを明確にしてください。また、既存の活動、サービスを実施する、強化する、再編する、新たに活動やサービスを生み出す、運営方法で効果を高める等のことがわかると、住民の理解を得ることができます。
5.専門職の役割と配置を明確にすること。特に、コーディネートする役割を持つ専門職がいませんと、限られた資源を有効に活用、開拓することができません。
6.資源の活用で事業化できるもの、たとえば現在使われていない住居等を活用した地域密着型施設、介護予防等の明確化が望まれます。
7.あえて、生活の質を基軸にした計画を作成してはどうでしょうか。すばらしい水と空気(親好)、おいしい食物と生命の質(健康)、豊かな近隣関係(親交)、生きる姿を大切にする宗教(信仰)、大人歌舞伎等の伝統と豊かさ(光)、働く機会と自己実現(振興)を軸に、予防、支え合い、地域振興とまちづくりを組み立てられないか?
8.資源の吟味を進めること
 現在のネットワークは重要です。福祉でまちづくりの視点は不可欠でしょう。広範囲に、かつ小規模集落が点在しているという地域特性から見ると、それぞれの集落にある「水」、整備され、網羅された「道」、きれいな「自然」も重要な資源でしょうか。結ぶという視点で何かプランはできませんか。また、自分の田畑以外の田畑を耕す活動もあるとするなら、その主体を増やしていくことも可能でしょう。それも産業化につながりますか。オーナー制も考えられますか。とにかく、ある資源を活用し、町を維持していく、そして、生活しておられる方々が誇りと安心感をもって生き続けられるため、地域福祉計画がまちづくりとなることを願っていますし、応援しています。

 日之影町は、かっていくつもの村が合併してできた町で、広範囲の地域に、比較的小規模な集落が点在している。すばらしい自然があり、水がでる場所に集落ができ、おいしい米と収穫物は地域力である。確かに、高齢化が進み、過疎が進行してきていることも事実。だが、そこに住み続けられる人々がおり、生活を支える文化や伝統が残されている。その事実から、将来を見据えた改革をすべきではないでしょうか。
 昭和30年代後半から始まる高度経済成長は、物質的豊かさをもたらした。「パイの理論」が主張され、パイ自体が大きくなれば分配するパイも大きくなると言われてきたが、ふくらんだのは、パイの殻だけだったのではないだろうか。人々の心の空洞化が始まり、バスに乗り遅れたたくさんの人々が生まれた。引きこもり、家族崩壊、社会的孤立、自殺者3万人、依存症等々。
 今また、目の前から、生活が、文化が壊れていくように思える。日之影町で私が学んだことは、生活の豊かさとは何か。生活の溶け込んだ文化があり、人々は自然に向かって祈りを捧げること。それは、第1に生かされていることの感謝、第2に日々の生活への愛着、第3に生きていくことの誇りであり、文化となってそれぞれの生活に根ざしている。
 それらは、いずれも現代に生きていく人々が取り戻さなければならいこと。
 翌日には、宮崎県社協において、「中山間地域・過疎地域等の人口減地域における地域福祉サービス・活動研究委員会」が開催された。委員会には、社会福祉の行政、社協関係者とともに、農協、商工会の代表にも委員として入っていただき、検討している。
 過疎問題に取り組む際には、以下の基本的視点が大切である。1.マイナス・危機は取り組み課題、プラス・可能性は資源として積極的に活用していくこと、2.日常的な関係等のソーシャルキャピタルを、一つの地域の可能性として維持・発展させていくこと、3.課題の共有化と合意、そしてそのプロセスを大切にすること、4.地域の資源とは、ひと、もの、かね、とき、知らせと広範囲であり、丁寧な地域診断が不可欠であること、5.地域の再生や活性化を含むまちづくりの視点を必ず加えること等である。
 本研究の目標として、事務局である宮崎県社会福祉協議会の山崎地域福祉課長らが考えている、ア.生まれ育ったところで暮らし続けることを支える仕組みづくり、イ.住民や多様な団体・機関の参加と協働のための仕組みづくり、ウ.地域再生・活性化のためのまちづくりの3つが組み合わされてはじめて、本研究会の目標が提示されるのである。
 これらの取り組みは、決してたやすいことではない。しかし、実際にそれを実現してきている市町村も少なくない。「なぜ、そうなったか」の理由を考えるだけでなく、「なぜ、そうならなかったのか」という視点も大切にしたい。